●可能な場合は、感情的にならず自分の感情を伝える

 何らかの行動を取る前に、まずは落ち着く時間を自分に与えることをお勧めする。

 人は動揺すると、戦略的な思考ができなくなる。心臓がドキドキしたり、拳を握り締めたりしていると気づいた時は、そのまま数分間待つ。筆者の一人フォスリエンは、自分の怒りを1(イライラしている)から10(激怒している)までの10段階で評価する習慣を身につけ、3か4まで落ち着いてから行動を起こすようにしている。

 自分の怒りが誰かの怒りによって引き起こされた場合、相手の行動が自分にどのような影響を与えたかを伝えよう。会話の前に、自分が望んでいる結果、言いたいと思っていること、そしてそれをいつ言うかを明確にしておく。その際、「あなたが○○すると、私は○○と感じる」というシンプルな構文が役立つ。

 2020年初頭、筆者らが企業でワークショップを行っていた時、ある女性から「上司に怒鳴られた時はどうしたらよいか」という質問を受けた。すると、別の参加者が口を開いた。

「私は役員秘書をしていますが、上司は私に対してではなく、何か別のことが原因で怒っている時でさえ、私を頻繁に怒鳴りつけていました。そのたびに私はうろたえ、上司にうろたえさせられたことに腹が立っていました。ある日、ついに言わせてもらったのです。『あなたがいま、頭にきているのはわかりますが、怒鳴られると仕事に集中できません』と」

 すると上司は、自分が心ならずも彼女のパフォーマンスを低下させていたことに気づき、謝罪した。その後、上司の暴言は激減したという。

 ●怒りを伝えられない場合は、間接的に自分の欲求に対処する

 時には、怒りの原因が自分では変えようのないものだという、忌々しい現実と向き合わねばならないこともあるだろう。そのような時は、自分をその状況から切り離す方法を探す。仮に、その状況から立ち去ることができない場合は、自分の欲求に間接的に対処する方法(友人やセラピストに支援を求めるなど)を見つけるよう。

 リサーチの一環で2021年に話を聞いた読者の一人レイチェルは、気難しい上司を前に無力感を感じていたが、すぐに仕事を辞めることはできなかった。「彼の非現実的な期待と権威主義的なリーダーシップスタイルによって、私はストレスと無力感の悪循環を繰り返していました」

 そこでレイチェルは、自信を高め、職場で自分の価値をもっと感じられるようにするために、小さなステップを踏み始めた。まず、上司と接する機会を減らした。「また、上司とは違い、私のことをよく知り、評価してくれるメンターや同僚のネットワークをつくりました。そのおかげで、上司のフィードバックで自尊心が傷つくのを防げるようになりました」

 ●怒りのエネルギーを戦略的に使う

 ラトガース大学准教授のブリトニー・クーパー博士は長い間、尊敬されるためには、そして人種的ステレオタイプである「怒りっぽい黒人女性」というレッテルを貼られないためには、自分の感情をコントロールする必要があると思っていた。

 ところが、ある学生から「先生の講義は、雄弁に怒りが語られているので大好きです」と言われ、考えを改めた。クーパー博士の感情が本物であるからこそ、学生は熱心に講義を聞くようになったのだ。彼女はいまでは、怒りを、不正義と戦う強さを黒人女性に与えるスーパーパワーだと考えている。

 クーパー博士の考え方は、研究結果にも裏付けられている。怒りは使い方によって、自信を高め、自分の能力や強さに確たる自信を与えてくれるのだ。

 研究では、怒っている人は、いかなる状況でも勝てると信じて疑わないことが示されている。米海軍特殊部隊SEALの新兵訓練では、怒りから生じる激しい感情やアドレナリンを、危険な状況に直面した時のエネルギーに変えられると教えている。

 これと同じ戦略を用いて、怒りをモチベーションに変えれば、効果的に自己主張できるようになる。

 たとえば、自分は昇進する資格があると感じているが、怖くて言い出せずにいるとする。その時は、次のように考えてみよう。「自分がこの件で怒るようなタイプの人間だったら、何をするだろうか。あるいは、同じ状況にある友人のために自分が怒っているとして、友人にどのような行動を勧めるだろうか」

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 私たちの多くは、怒りと制御不能のメルトダウンを同一視するように教育されてきた。しかし、この感情は、何かが間違っていることを知らせる重要なシグナルだ。効果的に利用すれば、物事を正すために必要な強さを与えてくれる。


"How to Manage Your Anger at Work," HBR.org, April 22, 2022.