●侵害があったことを認める

 人は動揺を隠すために、咄嗟に感情を押し殺そうとする。しかし、不当な判断によって傷つけられた時や、誰かに排除され続けて(あるいはもっと酷いことをされて)自分が価値のない人間だと思わされた時は、自分に言い訳することなく怒りを覚えてよい。

 ただし、自分の感情を即座に相手にぶつけるのではなく、自分がどのような感情を抱いているのか認識すべきだ。

 実際、正当な理由があれば、怒りは恐怖と比べてはるかに健康的な反応であることが、研究で示されている。怒りによって呼び覚まされる確信や統制感は、高血圧やストレスホルモンの大量分泌といったストレスがもたらす悪影響とつながりにくいからだ。

 怒りを引き起こした出来事が一見すると些細なことであったとしても、それが感情を爆発させる火をつけたということは、自分の中で火種がくすぶっていたはずだ。たとえば、終業間際に急ぎの頼み事をしてきた同僚は、これまでも仕事を人に押しつけたり、勤務時間外に不必要なメールを送ったりしていたのではないだろうか。

 ●過度のストレス発散は避ける

 ストレス発散には精神の浄化作用があると長らく言われてきたが、あなたが思うほど生産的な行為ではない。たとえば、お金を払ってテレビや皿を野球のバットで叩き割る「アンガールーム」が流行しているが、このような「破壊療法」は、怒りを収めるどころか、むしろエスカレートさせることが研究で明らかになっている。

 心理学者のブラッド J. ブッシュマンが、サンドバッグを打つことで怒りを発散する人を対象に行った研究では、「まったく何もしないほうが」怒りを鎮めるのに効果的だと示された。同様に、問題を理解したり、解決したりしようとせずに愚痴を言い続けることも、自分だけでなく、愚痴を聞かされる側も気分が余計に悪くなることが、研究によって示されている

 筆者らが執筆する記事の読者の一人、ポーラは次のように語っている。「同僚と愚痴を言い合うのを、いい加減やめることにしました。その時間を自己学習や自己改善に充てたほうが、ずっと気分がよくなることがわかったのです」

 ●感情の背後にある欲求を見極める

 研究によれば、自分の感情の背後にある欲求に注意を向けることで、状況を客観的かつ冷静に見ることができ、感情的ウェルビーイングの保護につながるという。

 以下の質問は、自分が怒っている理由を知りたい時に役立つ。

・何が怒りの引き金になったのか。
・この怒りの根底には、どのような感情があるのか。恐怖、あるいは無力感だろうか。
・自分がいま平静でいるためには何が必要か。
・長期的にどのような結果になれば、気分がよくなるのか。
・その結果に向けて、どのようなステップを踏めばよいか。
・それぞれのステップで、どのようなリスクを負い、どのような利益が得られるか。

 多くの人にとって、怒りの背後にある感情は恐怖だ。自分が何もできないことや、自分が大切にしているものが奪われたり、うまくいかなくなったりすることに対して、恐怖を抱いている可能性がある。

 実際、哲学者のマーサ・ヌスバウムは、最も一般的な政治的感情は恐怖であり、政治家はそれを利用して怒りや行動を喚起しているとすら述べている。