(1)これまでの制限を緩和する場合は、状況が許す範囲で行う

 米国の多くの地域で、新型コロナウイルス感染症の市中感染率が極めて低い水準に留まる中、企業は感染対策を撤廃し始めている。従業員の安全を守ることと、従業員のコミュニケーションの自由と最適な生産性を確保することのバランスを取ろうとしているのだ。

 感染リスクが低下していることを踏まえて、リモートワークをしていた従業員に出社を再開させる企業も増えている。ほとんどの企業で、マスクの着用義務も撤廃された。

 企業はこれまでの制限を緩和したとしても、一定の基本的な感染対策は維持すべきだ。たとえば、従業員に適切なワクチン接種やブースター接種を受けるよう促すこと、体調が悪い時は出勤を控えるよう指示すること、屋内で適切な換気を行うこと、職場で感染者が発生した場合の報告システムを設けること、などは今後も継続する必要がある。

 また、連邦政府や州政府、地元自治体のガイドラインが更新された場合は、それに応じて必要な措置や将来に備えた措置を採用しなくてはならない。

 地元の公衆衛生当局がマスク着用を要請していない場合であっても、今後も希望すれば、誰でも屋内でマスクを着用できるようにする必要がある。マスクを着用したいと考える従業員がいた場合、マネジャーはいっさいの事情を詮索してはならない。従業員が自分自身を守ろうとすることは、現時点での従業員の健康を守るだけでなく、次の感染拡大によって自社のビジネスが混乱するのを防ぐことにもつながる。

(2)次なる感染拡大やアウトブレイクにどう対処するか、現時点で計画を立てる

 新型コロナウイルスの新たな変異体が出現し、それが1日も経たずに世界中に広がったとしても不思議はない。そのため、企業は将来の感染拡大から自社のビジネスを守るための手順を、前もって決めておく必要がある。感染が下火になっているいまだからこそ、企業は過去2年間の過酷な経験から学んだ教訓を活かし、将来のパンデミックに対処するための計画を策定すべきなのだ。

 有効な対策を取るために、カギとなる要素がいくつかある。まず、自社の感染対策レベルを引き上げる基準範囲や閾値を定めることから始めるのがよいだろう。地域の市中感染率下水サーベイランスの結果、医療機関の病床使用率、検査の陽性率、変異体の感染力、ワクチン接種率などを基準に、どのような状況になったら対策を強化するか、あらかじめ決めておくのだ。

 企業は、どの事業拠点でモニタリングを行うかも選択しなければならない。ほとんどの場合、従業員数が多く、データを入手しやすい拠点に絞り込むのがよいだろう。また、オフィス自体ではなく、従業員が居住するエリアのリスクを評価したほうがよい場合もあるかもしれない。重要なのは、従業員の大半が仕事をしている場所、もしくはビジネスの混乱を最小限に抑えたい場所を選ぶことだ。

 マスク着用の義務付け、マスクの種類による有効性の違いの啓蒙活動、対人距離の確保、検査の実施、ワクチン接種の義務付けなど、介入策の多くは随時強化したり、緩和したりすることができる。とはいえ、あまりの高頻度で変更すれば、現時点でどのような方針が適用されているのかわかりづらくなり、従業員を混乱させかねない。

 バランスの取れた方針をあらかじめ定めておけば、新たな意思決定を最小限に抑えつつ、状況の変化に素早く対処できる。そのような効率的な計画を策定している企業は、パンデミックで状況が変わるたびに対応策の構築に忙殺され、本来のビジネスに集中できない競合企業に比べて、有利な立場に立てるだろう。