4.インフラを構築する
企業は、最終的な目標に向けたコラボレーションを可能にするため、基礎から構築される。それに対しエコシステムは、ばらばらに構成されたものが緩やかに組織化され、正式なガバナンスを持たないときも多い。
その隙間を埋めるために、CEOや非企業のリーダーたちがエコシステムの構成要素の上層で連携し、エコシステムの取り組みを、統治はしなくても調整する手助けをする。業界団体や官民パートナーシップ、さまざまな社会運動が生まれ、CEOにリーダーシップを期待している。「Water Resilience Coalition」(水レジリエンス連合)「Global Food Safety Initiative」(世界食品安全イニシアチブ)「Network for Greening the Financial System」(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)などのグローバルなイニシアチブは、エコシステムを変える取り組みに組織構造を与えたいという考えを反映している。
「CEO Action for Diversity & Inclusion(ダイバーシティとインクルージョンを推進するCEOアクション)」も、正式に組織化されることで恩恵を受けたエコシステムの取り組みのひとつだ。このフォーラムは、「ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂)は競争優位性ではなく社会の問題であり、大胆な変化を推進するためにはビジネスのコミュニティ、特にCEOの協力と大胆な行動が不可欠であるという共通の信念に基づいて」設立された。具体的には次のような恩恵が生まれている。
・知名度が高くて影響力のある企業のトップを含む、CEOの献身的なネットワーク。
・人々が支持を表明する機会と増え続ける賛同者。
・フォーラムのアジェンダを推進するような、フォーラム主催の取り組みと企業主導の取り組み、
・志を同じくする人々が参加できるワークショップ、ツール、リソース。
・企業と地元の組織、NGO、政府の政策立案者の連携。
・メンバーが行動を起こし、成功や課題をオープンに共有するプラットフォーム。
こうしたイニシアチブは、価値のある有意義な行動を公にすることが、共通のパーパスやコミットメント、プラットフォームがない場合よりも、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの目標達成を早めるという考えに基づいている。
5.リスクを予見する
企業の壁を越えて、ステークホルダーからの要請に応じて行動を起こすことを選択したCEOは、それなりのリスクを負うことになる。
彼らは新しい、よく知らない領域に足を踏み入れようとしている。簡単な答えのない、物議を醸すようなエコスシステムの問題に取り組もうとしているのかもしれない。社会的責任を口先では認めながら、長期的な価値創造のため短期的な利益を犠牲にすることは我慢できないという投資家に、対処することになるかもしれない。
ほぼすべてのCEOは、社会的・政治的利害が複雑に絡み合い、一部のステークホルダーを失望させ、遠ざけるかもしれないという状況で、舵取りを任されている。さらに、組織内とエコシステムのあいだで多くのことを引き受けて、あれこれと行動はするが影響は小さいというリスクも常に存在する。
こうしたリスクを軽減するために、CEOはエコシステムのどの領域に足を踏み入れるか、慎重に考慮しなければならない。取締役会や業界の専門家、信頼できるアドバイザー、さらには他の組織の仲間と相談しながら、自分たちの努力が最も大きな成果を生む場所を決めるのだ。また、ステークホルダーとの対話を頻繁かつオープンに続けて、信頼できるシニアリーダーのチームと協力しながらも、本業から離れすぎないようにする。
このようにリスクは確かにあるが、メリットも見込まれる。自分たちの取り組みから生まれるポジティブな社会心理、マルチステークホルダーのアプローチを支持する顧客や従業員の獲得、コミュニティや政府、社会制度とのより深くて生産的な関係、さまざまなイニシアチブが協力して初めて生まれる革新的な解決策などから、CEOは恩恵を受けるかもしれない。
今日の最も有能なCEOは、CEOも、企業や産業、国も、孤立した存在ではないことを理解している。世の中に明確な境界線はない。CEOはエコシステム全体に影響を与える企業のリーダーとして、私たちが共有する未来を形づくるため、手助けをする機会を前向きに受け入れなければならない。
"Today’s CEOs Don’t Just Lead Companies. They Lead Ecosystems," HBR.org, June 09, 2022.