2.シニアリーダーに力を与える

 企業のエコシステムに影響を与えるために時間を費やすと、経営に携わる時間が減る。CEOが従来の職務を超えて活動するには、より大きな役割を担えるチーム、すなわち自分の部門を率いるだけでなく、企業のリーダーとして育成されたベテランの人材が必要になる。

 すでに多くのCEOは、リーダーたちの強力なネットワークを構築するスキルに長けている。新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした変化のペースと量が、かつてないほど迅速な意思決定を求めたため、こうしたスキルが必要になったのだ。筆者らの調査によると、賢明な企業はこのような分散型モデルを定型化していくだろう。最も有能なCEO は、日々の業務に追われるのではなく、組織全体の集合的なエネルギーと共通のパーパスを解き放つことに集中する。

 CEOは今後も説明責任を求められる一方、CEOはリーダーのなかのリーダーにならなければならない。シニアリーダーたちが、投資家や取締役、さらには従業員と対等に渡り合えるような知識や情報を持つパートナーになり、代理人になり、後継者になるように力を与えるのだ。そうした人材がいれば、CEOは企業戦略とエコシステム戦略の両方を構築して高めるための時間と空間を確保できる。


 3.企業のマインドセットとエコシステムのスキルセットを育てる

 CEOは企業の成功だけではなく、自分たちのビジネスや、より広範な社会が成功するための健全なネットワークの構築に自分がどう貢献できるかを考えなければならない。

 このようなマインドセットとスキルセットの組み合わせを、新型コロナが猛威を振るった時期に多くのCEOが発揮した。

 たとえば、ニューヨークのいくつかの一流ホテルは、地元で緊急対応にあたる医療従事者に無料で部屋を提供した。もちろん正しい行動だったが、エコシステムを踏まえた決断でもあった。医療従事者が休息を取れて健康でなければ、新型コロナに感染した患者を治療できない。彼らが治療やワクチン接種をできなければ、人々は自宅にこもり続けることになる。人々が旅行を怖がったままでは、ホスピタリティ業界の苦境も続く。このように、ホテルを医療従事者に開放することは、ビジネスだけでなくホスピタリティのエコシステムとコミュニティ全体に利益をもたらすという、二重の結果につながる決断だった。

 同様に、エコシステムのスキルセットを持つCEOは、通常の影響力の範囲を超えて行動し、ビジネスと、より広い社会の両方に役立つネットワークを構築することができる。具体的には、今日のCEOは4つの主要な能力の習得に力を入れる必要がある。

・感情的知性(エモーショナルインテリジェンス)を発揮して、好奇心、開放性、脆弱性を示し、純粋な関心と共感をもって他者に対応する「人間らしい」能力。

・ステークホルダーのニーズのバランスを取り、共有価値を創造する機会を模索して、競争相手を協力者に変える能力。2020年4月にティム・クック(アップル)とスンダー・ピチャイ(グーグル)は、人々の命を救う取り組みに貢献する手段として、感染追跡技術を共同で開発すると発表した。

・正式な権限をほとんど、あるいはまったく持たなくても影響力を及ぼし、評判と仲間からの敬意を味方にして、エコシステムの状況に精通し、ウィン・ウィンとなる結果にコミットしてリーダーシップを発揮する能力。さらに、もし不可能なら妥協することも厭わない。

・公的人格を保ち、より幅広いステークホルダーに対応する能力。これには冷静さ、自信、エコシステムの問題に精通していること、さらには率直さと図太い神経が必要だ。