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私たちは未来を予測する際に、これまでのトレンドや統計情報といった過去の情報を用いて準備するように訓練、教育されてきた。そのため企業は、環境変化に対し積極的に対応すべきところ、苦戦してしまう。この問題は、世界中のエグゼクティブが抱えている問題だ。戦略立案の際に過去に囚われていると、未来の可能性を想定して設計する機会を逃してしまう。本稿では、筆者らが取り組んできた戦略立案手法「デザインフィクション」の可能性について解説する。デザインフィクションを用いることで、未来に根ざした具体的な行動を生み出せるという。

 

 未来を予測しようとする行為は、失敗する運命にある。にもかかわらず、大半のエグゼクティブは戦略を構築する際に、未来を予測しようとする。

 これは、私たちがトレンドや統計を用いて何が起こるかを予測し、それに応じて準備を整えるよう訓練され、教育されてきたためだ。その結果、企業は環境の変化を主体的に生み出すべき場面で、変化への対応に苦慮している

 この問題は、世界中のエグゼクティブが抱えている。戦略立案の際、過去に囚われていると、未来の可能性を想定して、設計する貴重なチャンスを逃してしまう。

 筆者らは7年間にわたって世界各地の約50のエグゼクティブチームと協力し、戦略策定に代わる新たなアプローチ──「デザインフィクション」──の試みを重ねてきた。

 デザインフィクションとは、エグゼクティブや従業員を可能性のある多様な未来のシナリオに深く没入させ、ショートムービーや架空の新聞記事、想像上のコマーシャルなどを使って、変革のロードマップを作成するテクニックだ。未来に根ざしながらも、現時点で行動を起こすよう支援する。よりよい未来を創造するために、企業のビジョン、戦略、活動を調整するための具体的な行動を生み出す。

 多くの「ストラテジック・フォーサイト・ツール」(戦略的予見ツール)と異なり、デザインフィクションでは、この先、どんな状況が起きる可能性が高いかを特定しようとしない。また、戦略に関する対話をするのは最高経営幹部だけではない。デザインフィクションでは幅広いステークホルダーの参加が中心的な要素だ。その結果、筆者らがデザインフィクションの導入に関わってきたチームでは、ほかのツールでは不可能だった望ましい未来を策定し、具現化することが可能になった。

デザインフィクションの使い方

 デザインフィクションを実践する最初のステップは、起こりうる未来のシナリオを作成することだ。たとえば、ある大手自動車保険会社とのプロジェクトでは、都市部の移動のトレンド、自動操縦の飛行モード、リュック・ベッソン監督の悪名高い映画『フィフス・エレメント』、早い段階で電気自動車を採用した人へのインタビューなどから情報を分析し、起こりうる未来のシナリオを構築していった。

 こうした非定型のデータソースを活用することで、通常の戦略策定プロセスでは気づきにくい、目立たない側面に光を当てられる。この例では、航空会社のパイロットと話をすることによって、自律走行エコシステムにおけるリスクがどのように変化していくかを理解することができた。バンパーショックや車両の制御不能といった事態はもはや起きないだろうが、システムのハッキングや重要なセンサーの故障といった新たなリスクが浮上するだろう。

 戦略的予見ツールと同じく、デザインフィクションでも現在のトレンドやかすかな兆候の分析を行う。ただし重要なのは、類似の状況やサイエンス・フィクション(SF)からのインスピレーション、極端なユーザーやそのほかのステークホルダーへのインタビューなどに基づいて、最高のデザインツールを活用する点にある。

 筆者らは通常、従業員へのインタビューも行い、どのようなシナリオが社内で検討されてきたか(されてこなかったか)を把握する。その際には「いままでに社内で目撃した最大の失敗は何か?」「会社を滅ぼす可能性のあるものは何か?」といった質問をする。

 こうしたデータから、未来を描いたシナリオのさまざまなバージョンを作成する。たとえば、ある大手フレグランスブランドの従業員に話を聞いたところ「100年以上前のブランド創設以来ずっと、会社の業績は年末の販売に左右されてきた」という、可能性を狭める信念が存在することがわかった。そこで筆者らはこの情報に基づき、販売シーズンを通年に分散させる「クリスマスは終わった」というシナリオをつくり上げた。

 次に、3~4種類のシナリオについて社内のあらゆる分野やレベルの従業員と議論を交わす没入型のワークショップを行った。幅広い層の人々が参加することで、戦略立案の幅が広がる。たとえば現場スタッフなどは、必要かつ異なる視点を提供することで、つかむべきチャンスを特定することができる。

 参加者は小グループに分けられ、起こりうる未来のシナリオにおいて、自社が果たせる役割や、より望ましい未来を実現するための条件を整える方法について考えを巡らせる。

 こうした議論を通して生まれるのがデザインフィクションだ。そこには、企業にとっての新たな使命やビジョン、そしてそこに至る道筋が記されている。

 自動車保険会社とのプロジェクトでは、このデザインフィクションのプロセスがきっかけとなって、会社のミッションが「車の損害に対して保険を提供する」から、「あらゆる移動手段による個人の旅を可能にする」へと変わった。

 また、「クリスマスは終わった」のシナリオを用いたフレグランスブランドとのワークショップでも、黒人歴史月間やプライドデー(LGBTQの権利への啓発を促す)などのイベントに焦点を当てた、より包括的な新しいミッションが生まれた。しかも、この会社では、そこに至る道筋について議論する中で、自社のターゲティング戦略の精度が大きく高まったことにも気づいた。

 最後は、デザインフィクションを使って、自社の未来像のプロトタイプと考えられる共有可能な成果物(ショートムービーや架空の新聞記事など)をデザインする。そうした成果物から、戦略的変革のロードマップを作成していく。

 たとえば、ある大手建設企業のデザインフィクション・プロジェクトでは、3Dプリンターによって二酸化炭素を排出しない建物を建設するという未来を考案した。それを受けて、その企業はイノベーション戦略を転換した。変革のロードマップには、3Dプリンティングで注力すべき分野と、この望ましい未来を実現するために必要な投資が盛り込まれた。

未来を発明する

 デザインフィクションは、多くの多国籍企業において従来と異なる戦略の策定に貢献してきた。架空の未来をつくり出すというと少々風変わりに聞こえるかもしれないが、筆者らはその効能を知っている。

 たとえば、ある大手石油・ガス企業が最近実施したデザインフィクション・プロジェクトでは、遠隔地に暮らす人々が社会的に孤立しない未来を構築する方法が編み出された。同社はガソリンスタンドを再利用し、カーシェアリングのハブや医療センター、配送のプラットフォーム、ゴーストキッチン(デリバリー用の調理を行うシェア型厨房)などのサービスによって、コミュニティを活性化させる拠点とすることにした。

 企業の経営幹部は過去にもさまざまな戦略立案や先見性のある取り組みを行ってきたが、こうした形の未来を思い描けるのはデザインフィクションだけだ。

 いつもうまくいくとは限らない。デザインフィクションを使いこなすためには、エグゼクティブが創造的で、あらゆる可能性にオープンであることが求められる。

 デザインフィクションが戦略立案プロセスに想像力を取り戻すのに役立つケースが多い一方、エグゼクティブがデザインフィクションに抵抗感を覚えることも多い。長年の習慣で、彼らの多くは戦略立案の際に想像力を封じ込めてしまう癖があり、その癖を捨て去ることは困難なのだ。

 そのような状況を打破するために、筆者らは彼らに、自分が責任者であり、自分にはより望ましい未来を構築する力があり、それを実行する責任も負っている、と思い起こさせる。

 結局のところ、未来を予測するのは不可能だ。私たちにできるのは、未来をつくり出すことだけなのだから。

 

“Using Fiction to Find Your Strategy,” HBR.org, June 14, 2022.