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インフレの進行、相次ぐレイオフ、さらに新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる働き方の変化から、本来人間に不可欠な、他者との交流が減少した結果、若い世代のメンタルヘルスの悪化が進んでいる。企業のリーダーやマネジャーは、次の世代を担う人材を惹きつける手段としてだけでなく、未来への投資として、若い従業員とのつながりを深め、支援することが不可欠だ。本稿では、若い世代をサポートするために、企業ができる4つの取り組みを提案する。

 

 インフレが進行して、学費ローンに縛られ、住宅は高すぎて手が出ず、レイオフが相次ぎ、パンデミックが長引いて、不況が迫り来る──いま、多くの若い労働者が限界に達している。

 34カ国の18~24歳、4万8000人を対象にしたサピエン・ラボズの「メンタルヘルス・ミリオン・プロジェクト」の新たなデータによると、若い世代のメンタルヘルスに関する苦悩は、パンデミックの間に加速、悪化していることが明らかになった。同研究所が2022年5月に公表した報告書「若い世代で悪化する社会的自己」によると、パンデミック2年目に、若年層の半分近くがメンタルヘルスの落ち込みを経験しているという。また、世界の若年層の半分以上において、他者と交流する能力が著しく損なわれていることも示された。

 若者の「社会的自己」の崩壊は、職場のリーダーにとって警鐘でもある。報告書は次のように指摘している。

 他者と効果的に関わり、交流する能力は、人間の協力と世界の構築にとって不可欠だった……。他者との交流を繰り返すことによってのみ、私たちは社会構造の中で自分の位置を確立する友情などの人間関係を築くことができる。現実から切り離されたように感じることや、対人回避、引きこもり、自殺願望などの症状は、社会構造からの切り離しや社会構造に溶け込めないことの極限状態を表している。

 この不安定な時代にリーダーや管理職は、次の世代を担う人材を惹きつける手段としてだけでなく、協力的な未来への投資として、若い従業員とのつながりを深め、支援することが不可欠だ。そこで、次第に弱くなってしまっている若い世代をサポートするために、企業ができる4つの取り組みを提案する。

 1. メンタルヘルスを前面に打ち出す

 リンクトインによるとZ世代の66%が、メンタルヘルスとウェルネスを基盤とする企業文化を求めている。メンタルヘルスのためのオンラインジム「コア」の共同設立者兼最高臨床責任者で心理学博士のエミリー・アンハルトは、リーダーは有言実行でなければならず、リーダーが自分のメンタルヘルスを優先しなければ、誰もそうしないだろうと話す。

 ウェルラブル・ラボズの「従業員ウェルネス業界トレンドリポート2022年」によると、雇用主の90%がメンタルヘルス・プログラムへの投資を、76%がストレス・マネジメントとレジリエンス・プログラムへの投資を、71%がマインドフルネスと瞑想プログラムへの投資をそれぞれ増やしている。

 メンタルヘルスとウェルネスを重視する文化は、瞑想アプリを提供するだけではない。従業員をケアするポリシーやプログラムを通じて、組織全体にメンタルヘルスの意識を浸透させるのだ。アンハルトは、たとえば、福利厚生がセラピーやメンタルヘルス関連の給付金などに対応しているかどうかを確認することを提案している。あるいは、「コア」が提供しているセラピスト主導のエモーショナル・フィットネスのようなメンタルヘルスの体験を通じて、従業員が最も健康的な自分でいるために何が必要かというフィードバックをこまめに行うこともできる。

 インフレ率に見合った競争力のある給与や、有給休暇、家族休暇制度の拡充、育児支援金やサービス、高齢者介護の支援、子育て中の親の支援グループ、ERG(従業員リソースグループ)やDEI(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包摂〉)に焦点を当てた仕事に対する追加の報酬を提供するという形も、メンタルヘルスを重視する企業の具体的な施策になるだろう。また、従業員の燃え尽き症候群や極度の疲労に対処するために、フレックスタイムの拡充や週4日勤務の試験的導入、「休息の金曜日」「ミーティングなしの日」「邪魔をしない時間」の設定など、従業員が休息と充電の時間を確保できるようにすることもできる。

 2. オンボーディングをコミュニティ形成のエクササイズにする

 オンボーディング(新規採用者の研修)は、新しく入社した人々に相互支援とウェルビーイングの文化を紹介する機会になる。バンブーHRの調査ではオンボーディングの経験を高く評価した従業員の80%以上が、その後も自分が所属する組織を高く評価しており、役割を明確に理解して、仕事に強くコミットしていると感じている。

 多くの若い従業員にとって、オンボーディングはプロフェッショナルな場を経験する初めて、あるいは2回目の機会かもしれない。特にリモートワークやハイブリッドワークでは、オンボーディングを通じて相互支援の枠組みを確立することが非常に重要になる。オンボーディングは、会社に関する情報を提供すること以上に、新入社員が互いを知り、安全かつ協力的な環境で質問をするために行うものだ。234ページのトレーニングマニュアルを読む時間ではない。従業員が新しい友人をつくるためのコミュニティを形成する場になるのだ。

 オンボーディングには、同僚の1日を観察して実際にどのように仕事をしているかを見るシャドーイングや、組織内のさまざまなマネジャーに挨拶をするスピードフレンディング、自分の目標をより深く理解するパーパス設定、新しいことに挑戦して互いに笑顔で接することに慣れるための練習といったエクササイズがある。