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部下のモチベーションを引き出し、パフォーマンスの向上につなげるにはどうすればよいか。自身のリーダーシップスタイルに悩むリーダーは少なくない。社会心理学の領域に目を向けると、各種データから明らかになっているのは、従業員との関係を優先し、積極性と思いやりを持って導くリーダーは、よりよい成果を生むということだ。相手を個人として認めることで、エンゲージメントが向上し、離職率は低下して、忠誠心と生産性が高まり、ひいては会社全体の利益となる。それらすべての土台となるのは、職場における健全な人間関係だ。本稿では、リーダーシップや対人関係に関する社会心理学の研究結果から、健全な人間関係がなぜ重要であるかを論じ、実際に職場の人間関係を改善するためにリーダーが実践すべき5つの基本原則を紹介する。

有能なリーダーは従業員のモチベーションをいかに引き出すのか

 クシャル・チョクシは、ウォール街で成功を収めたクオンツアナリストで、米同時多発テロ事件でツインタワーの2棟目が攻撃された時、ちょうどその建物に入ったところだった。ベストセラーとなった著書On a Wing and a Prayer(未訳)の中で語っているように、死に直面したことで彼は目が覚めた。9.11以前は富の獲得に力を注いでいたチョクシは、自身の仕事に対する姿勢に疑問を持ち始めた。

 考え方が変化したことで、部下との関係も完全に変わった。それまでの彼のリーダーシップスタイルは取引型だったが、従業員をそれぞれユニークな強みとニーズを持つ個人としてとらえるように変わり始めた。そして、効率だけを追求するのではなく、思いやりや優しさ、誠実さを持って導くようになった。そうすることで、かつてなく心が落ち着き、人としての充足感が高まったのである。

 やがて彼は会社勤めをやめ、ベンチャー企業を立ち上げると、事業は急成長した。シリアルアントレプレナーとして複数の事業を成功させたチョクシは、最初に手掛けたコンテンツディスカバリープラットフォーム「Hubbl」を1500万ドルで売却している。最新の事業は、伝統的な製法のチョコレート会社エレメンツ・トリュフで、利益の25%をインドの幼児教育に寄付する社会貢献企業として成功を収めている。

 チョクシのストーリーは感動的だが、有能なリーダーが従業員のモチベーションをどう引き出すかに関する研究結果に照らして考えれば、けっして驚きではない。

 社会心理学領域の各種データからは、従業員との関係を優先し、積極性と思いやりを持って導くリーダーは、よりよい効果を生むことがわかっている。

 最も有能なリーダー(個人の成功率と企業の成功によって評価される)は、価値観を重視し、透明性が高く、思いやりや人間味があり、従業員をユニークな個人として認識する。その結果、従業員のパフォーマンスも高くなる。つまりは、エンゲージメントが向上し、離職率は低下して、忠誠心と生産性が高まるのだ。このようなリーダーを擁する企業では、顧客満足度が向上し、収益が拡大して、株主利益も増加する。