
先輩社員が後輩社員を指導するメンターシップをよりよいものにするため、先輩社員であるメンターが自身のリソースを費やしてしまうことがある。メンターがバーンアウト(燃え尽き症候群)に追い込まれてしまうと、当然ながらメンターシップに悪影響が及ぶ。本稿ではそうした状況を未然に防ぐため、メンターのバーンアウトのリスクを高めてしまう要因を明らかにし、バーンアウトを防ぐ方法を紹介する。
メンターのバーンアウトリスクを高める4要因
メンターは、自分の時間、注意、リソースを他者の成長に費やす。通常、メンターシップは、その人の正式な職務上の要件を超えたボランティア活動だ。どんな組織でも若手メンバーは直感的に最も影響力のあるメンターを見つけ、メンターに引き寄せられるように集まるため、すでに多忙なメンターは、将来サポートすべきメンティが着実に増え続ける。その結果、優秀なメンターが過剰な責任を背負い、最終的にメンターとしての能力が低下することがある。
新型コロナウイルス感染症の影響によるプログラムの中止、対面ミーティングの減少、ハイブリッドワークによるメンターとメンティの間の勤務形態のずれ、長引くコロナウイルスのストレス、非公式な交流の減少などが、メンタリング関係に影響を及ぼしている。
メンターのあり方についての考え方も変化した。介護や教育と同様に、メンタリングはメンターとメンティの継続的な関係を示し、多くのメンターが非常に真剣に取り組んでいる。メンターの役割に疲弊し、能力が低下している兆候が出ているにもかかわらず、メンターは高いレベルのパフォーマンスを維持しなければならないというプレッシャーを感じ、自分のリソースを慎重に考慮せずにメンティのニーズに応えることがある。
40年以上前にハーバート・フロイデンバーガーが名づけた「バーンアウト」(燃え尽き症候群)は、疲労困憊、シニシズム、非効率性を伴い、行動にもその兆候は表れる。この3つの要素は、メンターシップを含む個人的な人間関係と、仕事上の人間関係の両方に悪影響を及ぼすおそれがある。
調査によると、優れたメンターは他者への共感や思いやりの面で秀でているが、境界線を引く、制限を設ける、必要なセルフケアをするといったことが難しい人もいる。その結果、バーンアウトしやすい傾向がある。メンターは、しばしばメンティの負担や不安を背負い、我が事のように苦痛を受ける。
メンタリングは、間違いなく影響力が大きく、かつリスクの高い関係だ。メンターがバーンアウトしてしまった結果、メンターとして不可欠な役割を果たせないと、心が離れた形のメンタリングになってしまうかもしれない。ベル・ローズ・レイジンズが「マージナル・メンタリング」と表現したように、メンターは善意をもって対応をしているにもかかわらず、価値がなく機能もしていない状態だ。
メンターのバーンアウトのリスクは、次の要因によって高まるおそれがある。
1. メンティの数が多すぎる、あるいは特別な注意や時間、警戒を必要とする困難なメンティを抱えているメンターは、メンタリングの要求に対処できなくなり、精神的に疲弊するおそれがある。中堅から上級レベルのマネジャーや経営幹部のメンターがあまりに少ないと、メンターシップに真剣に取り組んでいる人はより高いリスクにさらされる。
2. 過小評価されているグループに属するメンターは、少数派のメンティの多くを指導しなければならないことに負担を感じており、特に脆弱である。さらに、彼らはしばしば「文化的課税」に直面する。つまり、多くの委員会において、少数派メンバーとして形だけ参加し、組織に貢献するよう求められる。これは少数派の従業員に課せられる独特の負担である。
3. 職業によっては、メンティに対する擁護者としての役割と監視者としての役割の間に緊張関係が存在する。メンターは擁護者として指導を受ける者を導き、支援すると同時に、その職業を代表して能力を評価する監視者の役割を果たす。この緊張は、医療専門職や軍隊において顕著だ。現場で必要とされているとしても、能力の劣るメンティをそこに送ることは、その現場やほかの人々を危機的状況に追いやるかもしれない。
4. メンターシップのための時間が確保されていないメンター(多くの場合、組織がメンターシップを真に評価していない)や、家庭で介護を行っているというような、大きな責任を負っているメンターは、バーンアウトのリスクが高い。メンターを務める女性は、男性よりも時間的な危機感を抱きやすい。また、フルタイムで働く女性は、育児や家事に週8.5時間以上費やしている。さらに多くの管理業務をこなし、他者の感情的な要求に応え、若い女性の指導をするよう、制度的または社会的なプレッシャーをより強く感じている。