
キャリアの成長を求めるならば、職務の範囲を超えて仕事をすることは成功の近道だ。自発的に貢献行動をすることで、周囲からの評価が高まり、実際に昇給や昇進といった恩恵も受けられる。しかし、プライベートを犠牲にして家庭での責任が果たせなくなれば、パートナーとの関係が悪化するのは想像にかたくない。そこでカギとなるのが、職務外の仕事をすることをパートナーにどう伝えるか、である。本稿では、一連の研究結果から、職務の範囲を超える仕事をしつつ、家庭ではよきパートナーであるための4つの戦略を紹介する。
職務外の仕事をパートナーに理解してもらう5つの伝え方
職務の範囲を超えた仕事をすることは、仕事で成功するための素晴らしい方法だ。
研究によれば、組織市民行動(組織への自発的で無償の貢献行動)に多く従事する従業員は、業績評価が高く、社会的評価や昇給、昇進、重要なプロジェクトへの参加といった恩恵を多く受ける傾向があることが、明らかになっている。具体的には、「業務時間外や休暇中に働く」「プライベートの時間に、仕事に関するイベントに参加する」「特別なプロジェクトを遂行する」「仕事のためにプライベートの予定を変更する」といった組織のためになる活動だ。
しかし、当然ながら、本来の仕事以上のことをするのは、ストレスがたまり、疲れ果て、持続できなくなるおそれがある。実際、職務の範囲を超えた仕事をすることが個人のストレスレベルに及ぼす影響は、十分に立証されている。だが、ワークファミリーコンフリクト、特に従業員のパートナーとの関係に対する影響についてはまだ、そのほとんどが明らかになっていない。
家庭での責任と職務外の仕事を両立させるために、従業員はどのような問題に対処しているのか。これを探るため、筆者らは、米国に拠点を置く従業員1000人以上の企業を対象に、質的データと量的データを用いた一連の研究を行った。
筆者らは、ワーキングカップル28組にインデプスインタビューを行い、さらに従業員とそのパートナー192組を対象にアンケート調査を実施した。職務の範囲を超えた想定外の仕事の要求について、パートナーにどう伝えたかを尋ねたところ、5つのコミュニケーション方法が明らかになった(以下は、頻繁に実践されている方法順)。
(1)早めに知らせる:事前に、近い将来、職務外の仕事をする必要があることを、パートナーに知らせた。
(2)許可を求める:職務外の仕事に携わることについて、パートナーに許可を求めた。
(3)準備について話し合う:ベビーシッターの手配や食事のデリバリーなど、必要な準備を手伝うことで、職務外の仕事によって生じる可能性のある負担にパートナーが対応できるようにした。
(4)見返りを伝える:職務の範囲を超えた仕事をすることが自分のキャリアにつながり、最終的には家族全員の利益になることを説明した。
(5)以前の会話に言及する:仕事を優先させなければならない場合があることについて、パートナーが以前に同意したことを告げた。
これらの方法が明らかになると、今度は家庭内の関係性、そして従業員が職務外の仕事をするかどうかの最終的な決断にどのような影響を与えるかを理解したいと考えた。筆者らが特に関心を持ったのが、これらがワークファミリーコンフリクト(従業員の仕事が家庭の責務を妨げているとカップルが感じる程度)やパートナーの満足度(パートナーが従業員と満足できる、強く、安定した関係を築いていると感じる程度)と、どのように関係しているかだ。
当然ながら、最初の3つの方法(よりパートナー本位)は従業員のパートナーから好意的に受け取られたが、残りの2つの方法(より従業員本位)はパートナーの反応がよくなかった。
この結果はさらに、900人以上を対象に行ったフォローアップ実験でも裏付けられた。パートナーが早期に知らせ、職務外の仕事の許可を求めた場合に最も満足度が高く、以前の会話を持ち出した場合に最も満足度が低かった。同様に、以前の会話を持ち出した従業員は、ワークファミリーコンフリクトを経験する傾向が大きかった。
許可を求めることは、パートナーの満足度という点ではよいアプローチかもしれないが、この方法を取った従業員が、実際に仕事をする可能性は最も低かった。おそらくは、必ずしも許可が得られるとは限らない、あるいは「頼む」という行為が職務外の仕事をすることを思い留まらせるからだろう。
逆に、見返りを伝え、以前の会話を持ち出した従業員は、実際に組織のために職務の範囲を超えた仕事をする可能性が最も高かった。これは、その仕事を引き受けるメリットがコストを上回ると思ったか、すでに暗黙の了解を得ていると思ったためと考えられる。
もちろん、従業員が職務の範囲を超えた仕事をする意思決定と、その意思決定に対するパートナーの反応の両方に影響を与えうる要因は多数存在する。しかし、研究では、これらの要因の多くをコントロールした。
たとえば、従業員のコミュニケーション能力の違いによって結果に影響が出ないように、一般的なコミュニケーション能力の高さではなく、従業員が用いた特定のコミュニケーション方法の影響が結果に反映されるようにした。また、ある行動について、その行動自体ではなく、人々が取ったコミュニケーション方法の影響を測定するために、議論されている仕事の種類と量についてもコントロールした。
そして最後に、異なるコミュニケーション方法を取った場合にどのような反応を示すかを参加者に尋ねる際、従業員にとってエネルギーを消耗するシナリオ(例:重要な仕事を完了するために、夜遅くまで仕事をする)、あるいは充実感をもたらすシナリオ(例:お気に入りのレストランで、パートナーと一緒にクライアントの夕食会に参加する)の両方を示した。
当然ながら、充実感をもたらすシナリオのほうが好意的な反応を示すと人々は回答したが、満足度については、いずれのシナリオでも従業員のコミュニケーション方法に大きく影響された。
では、上司から特別なプロジェクトのために夜遅くまで働くように言われたり、休暇中にクライアントへ電話するように言われたりしたら、どうすればよいか。簡単な答えはないが、職務の範囲を超える仕事をしつつ、家庭ではよきパートナーであるという、時に相反する責務を両立させるのに役立つのが、以下の4つの戦略だ。