(1)本当に必要な仕事かどうかを明確にする

 従業員は、職務外の仕事であっても「それをやるかやらないかは、任意ではない」と考えることが多い。筆者らの研究でも、参加者に職務外のプロジェクトは「義務ではない」と伝えても、多くがその遂行を「求められている」と思い込んでいた。さらに、パートナーの多くも同じように、家族の目標を達成し、共有の価値観や理想に沿うためには、相手は職務の範囲を超えた仕事をしなければならないと思い込んでいた。

 だが多くの場合、職務外の余分な努力をすることは、本当に「余分なこと」だ。従業員が職務外の仕事をすることで家庭に問題が生じるような場合は特に、組織は本当に自分の助けを必要としているのか、その仕事はそれほど緊急性が高いのか、誰か代わりに対応できる人はいないのかを明確にしなければならない。

 たとえば、上司から休日に取引先との会食に誘われた場合、本当にあなたが必要なのか、それとも単なる誘いで声をかけているのかを確認する必要がある。従業員は職務外の仕事に毎回飛びつくのではなく、どの仕事が最も重要で、どの仕事が「できれば好ましい」もので、どの仕事が完全に任意のものかを明確にするようマネジャーに依頼すべきだ。

(2)「市民行動クラフティング」を行う

 職務の範囲を超えた仕事をすることは、特別な要求にすべて応えることではないし、むしろ、そうであってはならないだろう。

 上司から与えられたら、職務外の仕事であっても、何でもしなければならないというプレッシャーを感じるのではなく、いわゆる「市民行動クラフティング」を行うことが欠かせない。自分の興味や強み、ニーズに合った、職務外の働きをする方法を積極的に見つけるのだ。仕事と家庭を両立させる従業員は、家庭で必要以上に問題を起こすことなく、自分のキャリアを伸ばし、組織をサポートする方法を見つける。

 たとえば、勤務時間外の接待がパートナーの夕食の予定に影響する場合、代わりに新入社員のオンボーディングを手伝ったり、通常の勤務時間内に職務外のプロジェクトに手を貸したりすることを検討する。

 健全な境界線を設定し、自分が思うキャリアの成長のために積極的なアプローチを取ることで、自分自身のニーズと、自分が大切に思っている相手のニーズの両方に合致した方法で、プロフェッショナルとしての目標を達成することができるだろう。

(3)コミュニケーションの力を認識する

 職務外の仕事を引き受けるとパートナーを動揺させてしまうと思うかもしれないが、筆者らの研究によれば、パートナーの反応に大きく影響するのはコミュニケーションの取り方だ。

 たとえ、自分はコミュニケーションに長けていると思っていなくても、適切な方法を用いるだけで、状況は大きく変わる。特に、対立の可能性を減らすためには、以前の話し合いを持ち出さないようにして、できるだけ早めに知らせ、(ただパートナーに伝えるのではなく)職務外の仕事を引き受ける許可を求める会話にするように努めることだ。

 もちろん、自分のキャリアを伸ばすために、パートナーの許可を得なければならないと考える必要はない。実際、筆者らの研究では、許可を求めると、余分な仕事を引き受ける傾向が小さくなることが明らかになった。これらが相関関係にあることを考えると、キャリアの成長を優先している従業員にとって、このアプローチは最適ではないかもしれない。

 しかし、あなたが余分な仕事を増やすことで家事や育児の負担が増える可能性のあるパートナーに対して、尊敬と感謝を示すコミュニケーション方法を取ることで、対立の緩和に関する状況は大きく変わりうるのだ。

(4)コミュニケーション方法を目標と一致させる

 誰しも、プライベートあるいは仕事のいずれかに力を入れる時期がある。重要なのは、現在の目標に合わせて、行動を変化させることだ。

 キャリアを最優先するのであれば、職務外の仕事を引き受ける機会を最大限に増やすためのコミュニケーション方法を取るのが賢明だろう(ただし、家庭内に不満を招くおそれはある)。たとえば、職務の範囲を超えた仕事をすることで得られる見返りを強調したり、パートナーとの以前の会話に言及したりする。

 逆に、パートナーの幸せを最優先に考えるのであれば、許可を求めることや早めに知らせることを重視したほうがよいだろう(ただし、前者の場合には、職務外の仕事を引き受ける機会が減少する可能性がある)。

 また、仕事と家庭の両立を目指す場合は、早めに知らせることでパートナーの満足度を高めることができる。また職務外の仕事を引き受けるかどうかには、影響しないことが筆者らの研究で明らかになっているため、両者のバランスを図る方法としては、最善かもしれない。

 結局のところ、成功は相対的なものだ。職場での成功を促す戦略は、家庭での成功を妨げるおそれがあり、その逆の場合もある。そのため、自分にとって何が重要かを見極め、それに応じて最適なコミュニケーション方法を選択することが重要だ。

 これはどうすることもできない。職場において「善き市民」であることは、時に従業員とそのパートナーの双方の犠牲を伴うことがある。しかし、そのような状況になった時にパートナーとどのようにコミュニケーションを取るかが、ワークファミリーコンフリクトとパートナーの満足度、そしてあなたが実際に職務外の仕事を引き受ける可能性に重要な影響を与える。

 次に職務の範囲外の仕事をするよう求められた時は、一度立ち止まって、組織が何を求めているのかを明確にし、家庭で問題を生じさせることなく、雇用主のためになる創造的な方法を見つけ出すことが欠かせない。そして、パートナーにそのことを伝える前に、自分の状況や目標に合った最適なコミュニケーション方法を選択することである。


"You're Working More. Here's How to Talk to Your Partner About It.," HBR.org, July 06, 2022.