
リーダーが周囲の人々の反感を買わないために、意見が対立する問題について中立を保つ場面は多いだろう。筆者らの研究では、このような信頼を損ねないためのアプローチが、結果として信頼を損ねてしまうことが判明した。職場や世の中の分極化が進んでいる現在、たとえ意見が異なる相手であっても、自身の意見を明確に伝えることで信頼関係を築くことができるという。
信頼されるためには立場を明確にする
個人の政治的見解を公に共有することは、付随するリスクを冒して行うほど価値のあることなのだろうか。あなたのスタンスが顧客や従業員、フォロワーのスタンスと一致しているなら、どちらの側に立ってもほとんど無害である可能性は高い。あるいは、あなたの意思が強いものなら、道徳的な配慮が戦略的な配慮を上回るかもしれない。
しかし、多くのリーダーは議論を呼ぶような問題について、どちらかの立場を表明することをためらう。声高に主張すると、意見の異なる人々を遠ざけるおそれがあるからだ。人工妊娠中絶の権利について声明を出すことを検討しているCEOも、銃規制をめぐって意見が分かれるチームをマネジメントする上司も、時事問題について同僚と雑談をする人も、中立を保つことが安全な選択肢である場合が多いと、一般に考えている。しかし、本当にそうなのだろうか。
「議論に巻き込まれたくない」と考えるのも無理はないが、筆者たちの最近の研究によると、そうしたアプローチは逆効果になりかねない。さまざまな状況の職場で4000人以上を対象に一連の実験を行ったところ、立場を明らかにしない同僚や上司、公人には疑念を抱きやすく、信頼しない傾向が一貫して見られた。たとえ自分と異なる意見でも、率直に意見を述べる人の方が信頼されるのだ。意見が対立していなくても露骨に中立を主張する人は、相手と意見が対立することを避けようとしていると思われ、同じ意見の人からの印象も悪くなることがわかった。
たとえば、ある実験では、NFLチームのオーナーが記者会見で「国歌斉唱時に選手が人種差別などに抗議する意思表示として片ひざをつく行為を行う。これは許されるべきだと思うか」と質問されている映像を見せた。オーナーは、どちらかの肩を持つようなことはしたくないと答えた。
この映像を見た被験者の大半は、オーナーが何らかの立場を表明するほうが、自分の道徳観に反する立場であっても、誠実で信頼できると述べた。さらに、質問しているのはリベラルなニュース番組の記者だと説明された人は、オーナーが保守的な信念を持っていると思い、質問しているのは保守的なニュース番組の記者だと説明された人は、オーナーがリベラルな信念を持っていると考えた。つまり、オーナーの実際の意見とは関係なく、心の中で相手の意見に反対だから自分の立場を表明しないのだろうと疑われて、不誠実で信頼できない人だと思われたのだ。