別の実験では、被験者にパートナーと協力して作業をすると説明し、銃規制改革について自分と意見が異なるパートナーか、意見を共有しないパートナーか、どちらかを選ばせた。すると、意見を共有しない人より、意見が異なることがわかっている人と作業をしたいという傾向が見られた。その大きな理由は、自分の意見を言わないパートナー候補はあまり信頼できないと感じるというものだ。
このような傾向が見られるのは、実験のように管理された状況だけではけっしてない。似たようなことは現実の世界でも数えられないほど起きている。
テイラー・スウィフトは政治的な問題で中立の立場を取ろうとしたが疑念を抱かれ、より率直なコミュニケーションを取るようになった。ウォルト・ディズニーのボブ・チャペックCEOは、フロリダ州で物議を醸した「ゲイと言ってはいけない」法案(小学校で性的指向や性自認について議論したり教えたりすることを制限する州法。2022年3月末に成立、7月1日に施行された)をめぐって一時は中立を保とうとして、法案に反対するリベラル派の怒りを買った。その後、中途半端な言葉で反対を表明し、法案を支持する保守派の怒りを買った。
組織の中で、政治的議論に参加しようとしないマネジャーや従業員は、その理由が正当だったとしても、周囲に道徳的な疑念を抱かれかねない。オンラインミーティングで数人の同僚と話すにせよ、大勢のファンに向けて公式声明を発表するにせよ、重要なのは信頼だ。あなたの意見を待つ時間が長ければ長いほど、人々はより疑念を抱きやすくなる。
思慮深い中立の立場が受け入れられる場合もある。筆者たちの研究でも、中立的なメッセージに対し、戦略的なごまかしではなく純粋な不確実性や中道的な信念を反映しているように見える時は、基本的に被験者は寛容だった。
さらに、人々は自分が気付いていない中立を、不利に扱うことはない。政治的な話題が出るような場を避けて、どちらかの味方に付かなければならない事態を完璧に避けることができれば、目に見えない沈黙は、目に見える中立と等しい。信頼に関するペナルティを受けることはないだろう。
しかし、顧客や従業員が特に関心を寄せる政治的な問題について、リーダーが言動を求められることが増えている中、そのような会話を避けて「賛否両論ありますが」「私の考えは言えません」と予防線を張るばかりでは、不信感や反感を招く可能性が高い。
組織を率いる時も、会議でも、友人と食事をする時も、政治の話題は必ず出る。立場が分かれてしまい、議論になりやすい問題を避けようとするのは自然な衝動だが、筆者たちの研究が示す通り、どちらかの立場を取らないと反動を招く。相手に信頼できないと思わせ、自分の意見に同意していないと感じさせるのだ。
職場や世の中の分極化が進んでいるいま、信頼関係を築くには、たとえ意見が異なる相手でも(意見が異なる相手だからこそ)、自分の信念や価値観について話し合う方法を見つけることが重要になる。誰かに意見を求められたら、配慮と、思慮と、敬意をもって対応しよう。どちらかの立場で意見を明確にすることを、おそれてはいけない。