
アマゾン・ドットコムは先日、プライマリケア(1次診療)大手のワン・メディカルを買収した。アマゾンの資金、人材、テクノロジーを活用し、4.1兆ドル規模を有する米国医療業界に変革をもたらすことができるのか。本稿は、アマゾンが直面するであろう課題と、米国医療システムが直面している課題、そして課題解決の方向性を提示する。
米国医療システムのパラドックス
米国の医療システムは、果てしなく革新的であると同時に、深刻な機能不全に陥っているように見える。
一方では、華やかな新規ベンチャーの話が毎日のように耳に入ってくる。直近ではアマゾン・ドットコムが先頃、プライマリケア(身近でさまざまな相談にのってくれる1次医療)大手のワン・メディカルを買収し、医療の効率性と質とサービスの革新的な向上を約束した。
他方、米国医療システムの日々のパフォーマンスは国際的に恥ずべき水準にある。米国は、ほかのあらゆる高所得国の2倍に及ぶ医療費を支出している。にもかかわらず、妊産婦死亡率、乳児死亡率、防ぎえた死亡、薬物過剰摂取による死亡、慢性疾患率、肥満率、新型コロナウイルス感染症による死亡は、先進国の中で最悪の水準だ。米国民は、個人での医療費負債にあえぎ、豊富なコネを持つ人であっても、身近でさまざまな相談に乗ってくれる1次診療医を見つけるのに苦労する。
アマゾンによる39億ドルの買収は、これらをすべて変えるブレークスルーとなりうるのだろうか。この案件はつまるところ、医療サービスの提供にアマゾンが全力で臨む姿勢を明示しているように見える。そして周知の通り、アマゾンは十分な資金、人材と驚異的なITスキルを持ち、経済セクターを一変させる力があることも立証されている。また、高収益につながる長期的ビジョンを実現させるためなら、短期的に損失を被ってもかまわないという覚悟も示してきた。
アマゾンを過小評価すべきではない。だが、巨大で、問題だらけで、混乱した米国医療業界において、同社が優れた手腕を発揮する時に直面する課題についても過小評価は禁物だ。アマゾン自身でさえも、バークシャー・ハサウェイ、JPモルガン・チェースと同社の合弁事業ヘイブンの失敗、そしてアマゾン・ファーマシーがいまだに市場シェアの拡大やディスラプションを実現していないという苦い経験を通じて、このことを痛感している。
ワン・メディカルの買収案件について、まずは基本から考えてみよう。アマゾンの最初の目標は、新たなプライマリケア事業を成功させることだ。筆者の1人(デイビッド・ブルメンタル)が以前の記事で述べたように、プライマリケアは第三者支払機関からの支払率が低いため、経済面で厳しい状況に陥る。
実際、ワン・メディカルは赤字経営が続いている。なぜなら、会費を徴収しているとはいえ、同社の売上げの大半は通常の診療報酬から生じており、その診療報酬が不十分なのである。同社の患者は、比較的手厚い支払いが行われるまっとうな民間保険会社に加入している傾向にある。にもかかわらず赤字なのだ。
アマゾンのプライマリケア部門が利益を出すためには、買収したワン・メディカルのモデルを劇的に変える必要があるだろう。そのための方法はおそらく、米国医療システムの高コストと無駄の大部分を占める、専門医療と入院治療に伴う経済的リスクを引き受けることだ。
つまり、プライマリケア提供者は、医療サービスを提供すればするほど収入につながる「量」を前提とした既存の仕組みから脱却し、サービスの「質」に対して適正な値付けをして提供しなければならないということである。当初はサービスの量が減るため、プライマリケア提供者は売上げが減少するという経済的なリスクを負うが、サービスに適正な値付けができれば、経済的なリスクを回避できる。