従業員の声に耳を傾け、投資する

 次に、従業員の声に耳を傾け、投資することが必要だ。従業員は、組織がサポートしてくれていると感じていると、必要以上の仕事をしても「シティズンシップの疲労」につながることが少ない。

 効果的なサポートはまず、従業員が実際に何を必要としているかを理解することから始まる。それには、リーダーが、みずから従業員と接する時間をつくるだけでなく、マネジャーに対しては、従業員の気持ちを常に把握するよう奨励し、動機付けをし、そのための時間とリソースを確保させる。

 これは、単に共感を示すということだけではない。真の傾聴を行うには、それぞれの従業員がどうすれば仕事に夢中になれるか、定量データおよび定性データを収集することが必要だ。人事データ分析ツールを活用すれば、従業員のウェルビーイングやパフォーマンスを左右する要因が詳細に視覚化され、また先回りして「ステイ・インタビュー」などの個別面談を行えば、従業員体験への重要な洞察を得ることができる。

それだけでなく、リーダーは次のような環境を優先的につくらなければならない。それは、従業員が発言しても安全だと感じ、会社に大切に思われていると感じられ、上層部が自分の声に耳を傾け、懸念事項に対処してくれると確信できるような環境である。

 従業員は、十把一絡げにはできない。キャリアアップのチャンスを重視している従業員もいれば、スケジュールの柔軟性が大事だという従業員、あるいは単純に給与アップを求めている従業員もいるだろう。話を聞くことで初めて、個別のニーズに応えるための投資ができる。仕事上のチャレンジや、勤務時間の変更、賞与制度の透明化などさまざまなニーズがあるだろう。

一生懸命さより工夫を増やす

 リーダーはチームに対して、組織市民行動のポジティブな側面を保持できる。ただし、仕事第一で一生懸命働いていることを見せつける持続不可能な「ハッスルカルチャー」を押し付けてはいけない。そのために必要なのは、従業員に常時オンを意識づけてバーンアウト(燃え尽き症候群)させるのではなく、筆者らが提唱する「市民行動クラフティング」の追求を奨励することだ。

 不健全な職場文化では、従業員は職務以上のことをやらなければいけないと感じ、結果的にみずからのウェルビーイングを損なうことがある。たとえば、プロジェクトを余分に抱え、その結果、家族やプライベートでの大切な行事に出られなくなったりする。

 しかし、従業員が自分のモチベーションやニーズと合った組織市民行動を優先できたら、そのような活動は、負担になるどころかむしろ活力の源になる。たとえば、人助けをするのが好きな従業員は、社会貢献的な要素のある仕事を喜んで引き受けるかもしれない。人から評価されることがやりがいにつながる従業員は、社内で注目度の高い組織市民行動に力を入れると本人のためになる可能性がある。

 マネジャーの仕事として、従業員の声に耳を傾け、従業員が自身の内発的動機に沿った形で組織市民行動を選べるようにし、従業員に職務以上の仕事をする余裕がある時には、そのような仕事に取り組むよう奨励する。

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 静かな退職は大退職ほど業務への支障はないかもしれない。しかし静かな退職のほうが企業へのダメージは大きい可能性がある。これを防ぐために、リーダーは従業員に職務を果たすための動機付けを行い、彼らの声に耳を傾け、個別のニーズに対応し、従業員に自分なりの組織市民行動のあり方を工夫してもらえる組織文化を醸成することが必要である。


"When Quiet Quitting Is Worse Than the Real Thing," HBR.org, September 15, 2022.