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経済的な見通しが立たず、退職することが難しくなるにつれ、企業内に留まった状態で与えられた仕事以上のことをやらなかったり、仕事に対する熱意を失ったりする「静かな退職」(クワイエット・クイッティング)の問題は拡大する可能性がある。企業は、従業員の役割を超えた活動に支えられており、静かな退職の状態にある従業員がいると、その分、多く働く従業員が必要で、全体のリソースのバランスが崩れてしまう。そこで本稿では、筆者らが導き出した、静かな退職の原因を解消するために雇用主が取るべき3つの戦略を紹介する。

静かな退職の原因を解消する方法

 「大退職」(グレート・レジグネーション)については大きく取り上げられているが、退職に代わるものとして新たな言葉も登場している。「静かな退職」(クワイエット・クイッティング)といい、退職と同じような原因から、与えられた仕事以上のことをやらなかったり、仕事に対する熱意を失ったりすることを指す。責任は果たすが、残業や早出、任意の会議への出席など、組織内で役割以上の行動をする「組織市民(シティズンシップ)行動」と呼ばれる活動をしない。

 それは一見、問題がないようだ。職務を放棄しているわけではなく、それ以上のことを拒否しているだけなのだ。しかし、多くの企業にとって、義務の範囲を超えて働こうとする従業員は、重要な競争力だ。

 現実には、職務記述書や契約書などで仕事の内容を100%明文化することは不可能であり、企業は、必要に応じてプラスアルファの要求を引き受けてくれる従業員に頼っている。そのため、多くのリーダーが静かな退職の広がりに、かなりネガティブな反応を示しているのも不思議ではない。実際、筆者らが話を聞いたリーダーの多くがこう述べている。「辞めたい人を失うのは痛手だが、辞めない人が残るのはさらに深刻です。なぜなら、必要以上のことをしない人がいると、ほかの従業員が代わりに多く働くことになり、その人たちの負担が増えるからです」

 さらに必要以上の仕事をするために従業員が犠牲を払っている可能性があるものの、そうした犠牲は健全な組織では通常、ソーシャルキャピタルやウェルビーイングの向上、キャリアでの成功といったメリットによって相殺される。静かな退職の広がりは、この帳尻が合っていないと感じる従業員が増えていることを示唆している。

 つまり、雇用主は従業員に十分な投資や見返りをせずに、さらなる努力を要求しているのだ。経済的な見通しが悪化し、多くの人にとって退職することが難しくなるにつれ、静かな退職はますます一般化するだろう。

 幸い、静かな退職の原因を解消するためにできることがある。筆者らは、みずからの研究と文献調査の両方に基づき、雇用主が取るべき3つの戦略を導き出した。

職務を定義し直す

 従業員の職務が徐々に拡大するジョブ・クリープは、ある程度は自然なことだ。だが、特にコロナ禍でさまざまな対応に追われた2年の間に、かつてはプラスアルファとみなされていた活動が次第に仕事の一部として求められるようになり、組織市民行動によって得られるメリット以上に、犠牲を強いられていると感じる従業員が増えている。

 したがって、いまこそマネジャーが従業員の職務を再調整する好機といえよう。実際に必要な仕事と、本来プラスアルファとみなされるべき仕事をより正確に区別するのだ。その上で、従業員が最も重要な仕事を高いレベルで行うよう動機づけ、同時に仕事以外で自分自身をケアする余裕を持てるようにするのである。