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交渉の際、新たな見解を得ながら相手と深いつながりを構築する手法の一つとして、「でも」という言葉のコントロールがある。「でも」を会話で使うと、相手の反発を招きやすく、信頼を損ないやすい。本稿では「でも」を使うことによるダメージを軽減する3つの手法を提示する。

「でも」によるダメージを軽減する3つの手法

 多様な視点を持つことは、職場でのイノベーションを促進するが、いとも簡単に協働を頓挫させたり、衝突を起こしたりする要因にもなる。締め切りを守ろう、業績指標を達成しよう、というプレッシャーにさらされると私たちは、自分の理念を押し通すために、何としても同僚を説き伏せようとし、理念を脅かすすべてを排除しようとする。

 これはよくありがちなパターンである。しかし、そこには互いの直観や価値観、経験から学習するための絶好の機会が隠れている。勝つことばかり考えていると機会を見過ごしてしまうが、理解しようとすれば機会をとらえることができるはずだ。

 互いに自己弁護的な主張を繰り返していると、うんざりしてしまう。寛大な心で、より深く同僚とつながりたいと思うなら、職場における交渉のアプローチを変えることを検討してはどうだろうか。

 シンプルなアプローチとして、まず一つの単語に目を向けることだ。その単語とは「but」(でも)である。この言葉ほど、多くの反発の引き金になり、会話中に信用を損ねてしまうものはほかにない。交渉している間、あるいは議論している最中に、この言葉を何度耳にするか、そして自分でも口にするか、注意してみるとよい。この一言が会話の温度やトーンをどれほど変えるか、注目してほしい。

「でも」という言葉がもたらすダメージを阻止するために、3つの手法を紹介しよう。筆者はこれまで、ウォール街の企業やフォーチュン500、そしてITスタートアップのエグゼクティブやマネジャーたちに対して、難しい会話に臨む際のコーチングをしてきた。その経験から編み出した手法である。どれも勇気と忍耐力、そして練習を必要とする。しかし、そこに投資した時のリターンは、驚くほど大きい。

(1)「でも」の前に言っていることに着目する

 どのような議論や交渉においても、相手側は積極的に合意や協調を申し出てくる。自発的にそのように言うことが多く、通常はその直後に「でも」が付く(「部分的にはいい計画だと思います。でもうまくいかないでしょう」)。

 私たちは反射的に、「でも」の後に続く文言に目を向けるが、「でも」の前に発せられた意見に着目したらどうなるだろうか。

 筆者はそのような動きを目撃したことがある。物流関連の高価なプレミアムソフトウェアの販売を担当するチームと仕事をした時のことだった。営業担当者の中に誰よりも多くの商談をまとめている女性がいた。彼女が電話で話している時、価格に難色を示す相手にどのように対応しているのかを知りたいがために、筆者は横で彼女の話を聞いていた。

 端的に言うと、彼女は見込み客の話を聞きながら、自社製品が他社製品と比べどのような点で優れているかについて、話すきっかけをけっして逃さなかった。「貴社のソフトは好きです。でも、高すぎます」と言われたら、彼女は「どのような点が好きなのですか」と質問する。ポジティブな意見を受け止めて、相手の視点を価格から価値へと動かしたのである。すると具体的な利点を挙げた見込み客が実際に購入に至る確率は高くなった。

 もう一つの例を挙げよう。教会での集まりの後、若い牧師と年配の男性が出入り口で次のような会話を交わしているのを耳にした。

男性「教会に献金しようと思っています。でも、あなたのやり方は好きではありません」
牧師「なぜそれほど気前がよいのですか」

 この牧師が思慮深く尋ねたおかげで、会話はより親密で実りのあるものになった。

 ポジティブな意見を優先して会話の流れを変えるのである。