(2)「でも」を好奇心に置き換える

 一般的な議論では相手が何かを言い、あなたは「でも」と受けて反論をする。

 もし、あなたの次の動きが、真の好奇心から来るものならばどうだろうか。「でも」を質問や依頼に置きかえたらどうだろうか。「その点についてさらに話してもらえますか。あなたにこれがどう見えるのか、確認をさせてください」「この問題についての話し合いで、これほど興奮してしまったのはなぜでしょうか」「この問題は明らかに私たち双方にとって大きな関心事ですね。どのような経緯でこの問題があなたにとって重要事項になったのですか」などと尋ねてみるのだ。

 相手の見解の奥底にある価値観を理解しようとすることは、脆弱性と受容性を相手に示すことでもある。ある意味で議論の「通貨」とも言える「話す時間」を相手に与えることで、機先を制して相手の敵意を和らげるのである。

 緊張感の漂うミーティングを観察していた時のことだ。カスタマーケアチームのマネジャーが、会社は新製品のサポート業務を自分のチームに委ねるべきだと熱く訴えていた。しかし大半の人は、その主張に反対していた。そしてついにミーティングの進行役だったエグゼクティブがこう告げた。「トム、あなたがこの件に強い思い入れを持っているのは分かります。それがどこから来ているのか、私に理解できるように話してくれますか」

 この発言がきっかけとなり、マネジャーは自分が危惧していることを話した。その会社はサポートの必要が減る高品質の製品をつくり始めており、製品サポートのために教育し、育ててきたチームの面々をレイオフすることになるのではないかと彼はおそれていたのである。チームへの忠誠心とメンバーのウェルビーイングに対する個人的な責任感が、彼の真の問題だった。

 このような形で真相は明らかになった。彼の感情が昂ぶっていたのは、言葉に表していない価値観の現れだった。それを見抜いた人が、価値観を皆と共有するよう促したのだ。そしてミーティングは、サポートチームに任せるべき新たな仕事についての話し合いへと変わった。

 言葉に表されていない他人の価値観を尊重するための手間を惜しまなけば、いままで以上に深い対話ができるようになるだろう。

 3.「でも」という前に口をつぐむ

 ある金融サービスの会社で、ビジョンを持ったCEOとCMO(最高マーケティング責任者)が自社の競争力を維持すべく、野心的なデジタル・トランスフォメーションを提唱していた。ほかのエグゼクティブたちは、この計画を実行するには資金的に余裕がないと言って、計画に反対した。

 最後にCEOは「取締役会は、この投資のリターンをどう計算しているのか知る必要があるということですね」と言った。そして彼は一息付くと「その意見に賛成です」と言った。

 彼はその後に「でも」を付け加えなかった。単にそれ以上何も言わなかった。

 これは議論において効果的であり、珍しいことであり、そしてシンプルである。同意できることに気づいた時にはそれを認め、自分に話す番が来た時の答えは、それを認めるのみに留めるのだ。

 あなたが理解したというシグナルを出すと、敵意は一時的に消える。

 賛意を示すと相手がさらに攻めてくるのではないかとおそれがちだが、実際に賛成するということは、信用を築いて会話の流れを変える可能性を持つ、魔法の一手なのだ。

 ほかのエグゼクティブが話をしている時に、CEOが彼らの価値観を尊重する気持ちがあることを見せたことで、革新的な投資を評価するための新たな枠組みを構築しようとする意欲がエグゼクティブたちの間に湧き上がり、CEOが取締役会からこのイニシアティブへの支持を勝ち取る一助になった。

「私たち双方にとってこれはかなり重要です」などと言うことで、あなたは一時的に相手と同じ立場になり、膠着状態を和らげ、解決の可能性を高める。すぐに議論が再開しても、わずかでも築くことができた信頼関係が、のちによい結果をもたらす。

価値観を共有し合意点を見出す

 議論に勝つ必要があると思い込んでしまうと、防衛策を取ることは自然に思える。しかし、ここに挙げたような形で「でも」をコントロールすれば、言葉の対立の奥底に隠れている創造的な解決方法を手繰り寄せることができる。同僚と、より実りある協働の基礎となる敬意と信頼も培える。

 あなたが「でも」という言葉との関係を変えると、いままで口論することで得られた興奮を失うかもしれない。新たに得られる見解とより深いつながりには、それを犠牲にする価値があるはずだ。


"For Better Negotiations, Cut “But” from Your Vocabulary," HBR.org, August 19, 2022.