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企業の人材難は、なぜここまで長引いているのだろうか。景気後退の局面であっても、米国においては失業者1人あたり2件の求人があるという。企業がこの状況に対応するには、アプローチを変えるしかないと筆者らは断言する。では採用のアプローチをどのように変えればよいか。参考になるのは『マネーボール』であるというのが筆者らの主張だ。加えて大学院におけるケースや、具体的な方法も紹介しながら、企業がいかに人材難を乗り越えるべきかを解説する。

 

 米国企業を悩ませている人材難は、いまに始まったことではない。15年前に実施されたPwCの調査によると、人材を引き付け、維持するには戦略の変更が必要であるとCEOの93%が認識している。これほど前からよりよい人材を採用できるよう改善を重ねてきたのに、なぜいまだに多くの企業が苦戦しているのだろうか。端的に言えば、企業がパフォーマンスの定義と、追跡方法の改善に、時間を割いてこなかったからである。

長引く問題

 最近、何人かのエグゼクティブから、景気に軟化の兆しがあるのにもかかわらず、人材難の懸念は消えないのかと質問された。たしかに経済学者は、連邦準備理事会(FRB)がインフレ抑制のために金利引き上げに踏み切ると予測しており、それに伴う失業者の増加が見込まれている。しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが明らかにしたように、すべての景気後退が同じというわけではなく、雇用は今後も多くの企業にとって大きな障壁であり続けるという明らかな兆しがある。

 2017年の米国労働統計局の公式発表では、求人数は620万件で、それまでの最高値を塗り替えた。2018年も、さらには2019年もその記録を上回り、求人数は750万件にまで達した。現在は1070万件と、2019年の43%増である。その結果、現在の失業者1人当たりの求人数は2件となっている。

 たとえ景気後退の局面に入ったとしても、これだけ大きな労働市場の不均衡が解消されるとは考えにくい。パンデミックによる欠員が累積している経済領域や、大卒者や高度専門職など、過去の不況期でも失業率が相対的に低かった分野では、特にそうだろう。

 もはや企業に選択の余地はない。採用のアプローチを改善するしかないのだ。では、具体的にどうすればよいのだろうか。

つぎはぎの人材戦略ではなく『マネー・ボール』を手本にする

 知識ベースの経済では、個人が組織に貢献する方法が多様化している。仮に、あるテクノロジー企業にケイトとジョン、そしてアディティという3人の有能なプロダクトマネジャーがいるとしよう。ケイトの成功の秘訣はデータに基づいて顧客のニーズを把握するアプローチで、ジョンの強みは商品デザインへの直観的アプローチ、そしてアディティの強みはチームを強化する能力だ。3人全員が実績をあげている限り、経営者は喜んで好きなように仕事をさせていた。

 問題が生じたのは、経営者が第4のプロダクトマネジャーを雇用しようとした時だ。ケイトとジョンとアディティがそれぞれの優れたスキルで貢献していることを認識していた同社は、3人の能力を足し合わせた職務記述書を作成したのである。これは言わばフランケンシュタインのような、つぎはぎの人材戦略だ。一つの飛び抜けた能力を持つ人ではなく、あらゆる項目にチェックマークの入るような候補者に焦点を当てたのである。

 これを『マネー・ボール』の採用アプローチと比べてみよう。同著によれば、弱小球団のゼネラルマネジャーに就任したビリー・ビーンは、選手によるチームへの貢献は一様ではないのに、すべての場面で貢献できる選手を求める昔ながらのアプローチに疑問を抱く。

 そこでビーンは、多様な選手を集めることにする。おのおのが独自の貢献をするチームをつくるのだ。言い換えると、新規に採用する選手に期待する資質の数を減らしたのである。

 同時にビーンは、個々の役割の成功の要素は何かをじっくりと考えた。「さまざまな形で勝利に役立つ」といった漠然とした定義の代わりに、たとえば出塁率の高さなど、より絞り込んだ形で個々の選手がどのようにチームに貢献できるかに注目した。そして、たとえ欠けている面があっても、1つか2つの面で圧倒的なパフォーマンスを発揮し、ネットポジティブな貢献をする選手に、焦点を当てたのである。