大学院入試のケーススタディ
最近、筆者らは米国のある大規模な大学と共同で、MBA入試のプロセスを再設計した。同大学には、「よい学生」の最大の予測因子は、大学院でビジネスを学ぶために必要な能力があるかを測るGMATの定量的要素であるという長年の信念があった。ビジネススクールでは、統計学や経済学、財政学といった分野で高度な能力が求められる。実際、一部の教授陣は、定量的GMAT以外の入試プロセスはすべて時間の無駄だと考えていた。
しかし筆者らはビリー・ビーンの例にならい、これまでの通念ではなく、過去のデータに目を向けた。
最初の難問は、同大学におけるパフォーマンスの定義を明確にすることだった。よいパフォーマンスとは、学業成績が優秀なことを指すのか、それともキャリアの成果がよいことを指すのか。キャリアの成果の指標としては初任給を用いるべきか、それとも数年後の給与のデータを集めるべきか。あまり給与の高くない部門で有意義な職についた学生はどうなのか。こうした疑問について議論するうちに、望ましいパフォーマンスには多様な側面があり、測定しやすいものも、しにくいものもあることがわかってきた。結局、学業成績のような一見わかりやすい側面でも、複数の指標を用いることにした。
最終的に、筆者らのチームの分析では、数学的な思考力を測るGMATのQuantitativeセクシ
Verbalのスコアを以前より重視することは、入試プロセスにおいてはシンプルな変化だが、これまでとは異質な学生集団の入学につながる。アプローチを変えることによって、従来の通念をそのまま踏襲する大学に対して競争優位に立てるのである。
実践する方法
筆者らが話をしたビジネスリーダーのなかには、雇用に対する分析的アプローチの必要性は理解していても、実践に二の足を踏んでしまう人もいた。パフォーマンスの定義と追跡に当たっては、複数年かかるような複雑なプロジェクトを開始して、新しいパフォーマンスのデータの山を築く必要などない。多くの場合、必要なデータはすでに手元にある。ただ、それをどう活用するかをじっくりと考える必要がある。
まず、チームや組織に期待する成果を定義することから始めよう。次に、その成果を測定し、それが多様な個人のどの仕事に起因するのかを見分ける方法を創造的に考えるのである。だが、ホワイトカラーのエグゼクティブによる最初の反応は、業界ではそのような成果を誰か1人の仕事に帰することはほぼ不可能だ、というものだった。
しかし、筆者らは測定し、見分ける方法を発見してきた。たとえば、
組織が理想とする成果のアウトプットデータをどうしても定義できない場合、従業員の活動のインプットデータが役立つことがある。
筆者らのクライアントである椅子メーカーは、注文に応えるのに十分な人員を雇えないので、収益目標をあきらめようとしていた。また従業員の高い離職率や欠勤率にも悩まされていた。筆者らが同社の内部データから明らかにしたのは、工場で極端に過小評価されているグループに属する女性従業員が、最も欠勤が少なく忠誠心があることだった。同社は、採用プロセスで女性やその他の適任の候補者を見逃し、生産性の低い男性を優先していたことが問題の原因であることに気づいた。
以上のステップを実施するためには、企業は明確な答えのない複雑なテーマに取り組む時間を特別に設ける必要がある。たとえば、会社の財務的成功をどのように定義するのか。売上げの増加か、利益の増加か、それとも株価の上昇か。
筆者らの経験では、このようなことは、いずれどこかの段階で考えなくてはならないことでもある。だが労力を要することであるため、それを実行している組織は少ない。
『マネー・ボール』の例のように、これまでとは明らかに異なる結果を出したいならば、これまでとは明らかに異なる人材探しのアプローチを取るべきである。実に明白なことだが、めったに実践されない。よりよい人材を発見するには、着地点を起点とすることが大切なのである。
"To Make Better Hires, Learn What Predicts Success" HBR.org, August 22, 2022.