レプリゼンテーション以上のものを追求する際に必要なもの

 筆者らが調査対象とした企業のなかには、さまざまな課題を抱えながらも、多様な背景を持つ取締役を採用し、関与させることに成功してきた取締役会もあった。そのような取締役会は、以下に挙げる戦略の多くを採用していた。

 ●聞き上手の議長を選出する

 筆者らが行った多くのインタビューで一貫して指摘されていたのは、多様でインクルーシブな取締役会にとって最も重要な要素は、聞き上手な議長だという点だった。

 取締役会の多様化が進むと、議長が取締役の視点を積極的に追い求めて理解し、取締役会全体として「すべて」の仲間の貢献が正当に評価されるようサポートすることが重要になる。

 ある取締役は、「私が見てきたなかで最高の取締役会議長は、人々の本当の洞察に熱心に耳を傾け、信ぴょう性を示すために使いがちな流行語や、『私の経験では』といったフレーズに惑わされないよう、特別な努力を重ねている」と語った。

 ●ダイバーシティとインクルージョンのデータを収集し、そこから学ぶ

 真のインクルージョンを実現するためには、測定可能な目標に基づいた明確な調整が不可欠だ。筆者らの研究では、インクルージョンが最も進んだ取締役会は、女性やマイノリティの取締役の人数だけでなく、社会経済的階層やインターセクショナルなアイデンティティに関する指標も追跡し、共有していた。

 さらに当然ながら、最も効果的な取締役会は、単にレプリゼンテーションを追跡するだけでなく、調査やインタビューを頻繁に実施してインクルージョンの質に関する指標も測定していた。

 特に重要なのは、長期にわたってインクルージョンのパターンに関する情報を収集しておくことだ。これは、ダイバーシティが業績にプラスの効果をもたらすまでに何年もかかる場合もあるためだ。

 ただし、取締役がモチベーションを維持し、自分たちが正しい方向に進んでいるという確信を持つためには、タイバーシティとインクルージョンに関する短期的な進展を示す証拠も有益である。

 ●多様な候補者やメンティーに関与する

 レプリゼンテーションから真のインクルージョンに移行する取り組みの第一歩は、さまざまな背景を持つ人々と関わり、純粋につながりを持つことだ。

 うまく運営されている取締役会は、既存の取締役に対して、自分と異なる民族または自分より低い社会階層に属する取締役候補を1~2人選び、メンターとして関わるよう明確に要請していた。

「たとえその候補者が登用されなかったとしても、この取り組みによって既存の取締役は人脈を効果的に多様化し、似たような背景を持つ他の候補者が直面する障害を理解しやすくなります」とある取締役は話した。

 ●小委員会に権限を与える

 ダイバーシティを推進した結果、協調性が高まり、株主との強固な関係を築いた取締役会には、たいていの場合、特定の領域で明確な意思決定権を持つ、強力な小委員会が設置されていた。

 新任の取締役は小委員会に加わることで、取締役会の政治や文化、プロセスへの理解を深め、より大規模な取締役会に効果的に対応するために必要なツールを手に入れる。

 ある女性取締役は「私は監査委員会で自分の 『声』を見つけました」と語る。「大きな会議(メインの取締役会)では自分を偽者のように感じていましたが、数字の話ならけっして引けを取りませんでした。そこで私は、同じ金融関係の取締役仲間の共感を得られるような論拠を編み出す手法を考え、その手法を用いて、より大規模な取締役会にも影響を与えることができるようになったのです」

 ●文化を優先する

 企業文化は後付けできるものではない。そのため、取締役会は指名委員会に対して、インクルーシブな取締役会の文化を創り出す責任を積極的に課す、あるいは、そうしたタスクを担う独立した委員会を設立する必要がある。

 また、取締役会のメンバーは会議以外の場でも時間を共有すべきだ。そうすることで信頼関係を構築し、長く続く個人的な人間関係を築き、他の取締役の視点がもたらす価値を理解できるようになる。

 加えて、心に留めておくべきことがある。それは、取締役会の「典型的」なメンバーと異なる属性を多く備えた取締役ほど、相互の信頼と理解を築くのに多大な労力を要するということだ。

 ある多国籍企業の総務部長によれば、取締役が互いを知るために時間をかけていると、相手に異議を唱えたり、重要な質問をしやすくなり、その結果、全員の声が届き、検討されやすくなるという。

 その際のゴールとは、多様な背景を持つ取締役を従来の企業文化に同化させることではない。むしろ、彼らがもたらす新たな視点や業務の進め方を受け入れられるよう、企業文化を変化させることである。

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 結局のところ、レプリゼンテーションは重要だが、意義のある進化を遂げるためには、それだけでは不十分だ。

 取締役会の多様性を最大限活用するためには、単に女性や有色人種を何人か採用するだけではなく、多様性へのインターセクショナルなアプローチを取り、地位や経験に関する前提を疑い、真の意味でインクルージョンが大切にされる企業文化の構築に投資することが重要だ。


"Is Your Board Inclusive - or Just Diverse?" HBR.org, September 28, 2022.