プロセスを管理する

 業務のデジタル・トランスフォーメーション(DX)に貢献したいと考える従業員を擁する企業は多数ある。そのような状況を受けて、筆者らはデジタルカイゼンを成功裏に持続させるために不可欠な5つの要素を特定した。

 ●意識を高める

 成功したあらゆる変革がそうであるように、デジタル技術とプロセスの現状について幅広い認識を持たせることが有効だ。

 たとえば、PwCでのデジタルカイゼンの取り組みは、デジタルフィットネスアプリを使って従業員がみずからのデジタルスキルを自己評価することから始まった。また、この問題をめぐる緊急性と真剣さを高めるために、Cレベルのエグゼクティブたちが自分の評価結果を弱点も含めて公開した。

 ●現場スタッフのスキルを向上させる

 現場の従業員の大半はプログラマーではなく、プログラミングが主要業務でもない。だが、研修やハッカソンを通じて彼らにデジタルスキルを教えるほうが、デジタル化の専門家に彼らの課題に関する情報を伝えるよりも容易な場合もある。

 しかも、現場の従業員はスキルアップへの意欲が強い。PwCでは、デジタルスキルのコースに定員の3倍以上の応募があった。同社では、このアプローチが浸透していくにつれて、当初は「デジタルアクセラレーター」によって提供されていた研修が、全従業員が利用できる一連の研修モジュールに置き換えられた。

 ●組織内の役割をアップデートする

 シチズンデベロッパーは、肩書きをはるかに超えた役割を担っている。企業はその役割を公式に認め、研修を通じてサポートすべきだ。シチズンデベロッパーに自動化ソリューションの作成に要する時間を有給で割り当て、結果責任を負わせるという方法もある。

 また、リーン生産方式の習熟度を示す「グリーンベルト」や「ブラックベルト」を模して、デジタルカイゼンにおける期待やスキル、役割のレベルに応じた称号や修了証を授与することも可能だ。

 たとえば、ルーマニアのソフトウェア企業UiPathでは、最も基礎的なレベルに当たる「自動化コンシューマー」は、システム開発は行わないが自動化関連のアイデアを提供する。その次のレベルの「シチズンデベロッパー」は、主に自分向けに自動化を構築する「セルフユーザー」と、より大きなユーザーコミュニティのために自動化を構築する「パワーユーザー」に分けられる。

 ●報酬と動機付け

 先述したように、PwCでは、ダウンロード率とユーザーによる評価を金銭的なインセンティブと業績評価に連動させることで、従業員がデジタルカイゼンに取り組む強力なインセンティブを生み出している。

 しかし、必ずしも金銭的なインセンティブが必要とは限らない。たとえば、世界的なマーケティング・広告企業の電通の自動化推進責任者は、「社内での知名度向上や、退屈な仕事を減らしたいという強力で利己的な衝動が原動力となっている従業員もいます」と語ってくれた。従業員は、日々の業務における「繰り返し作業」を減らすこと、自分が開発したデジタルツールを支持し、それによって自身のデジタルスキルをアピールできることに強力なモチベーションを感じている。シチズンデベロッパーがダウンロードやユーザー統計とともに、自分の開発したツールを履歴書に記載するケースもよくある。

 ●ガバナンス:創造性と管理のバランス

 企業はデジタルカイゼン・プラットフォーム上に適切な「シチズンデベロッパーの権利」を設定することで、管理体制を構築できる。この権利は、開発とアップロード(誰がどのようなツールを開発してアップロードできるのか)、承認(どのソリューションに専門家からの承認が必要か)、ダウンロード(ダウンロードすべき人、あるいはダウンロードしてよい人は誰か)、改変(ツールのどの部分を誰が修正できるか)を軸としたものである。

 これらの問いに答えることで、企業は各所からアイデアが湧き出る創造性と、全社的に一貫性のある基準を維持する必要性との間に生じる緊張関係をマネジメントできる。

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 PwCをはじめ、本稿で取り上げたデジタルカイゼンの先駆的企業は、このアプローチが、標準的なナレッジワーク・プロセスの自動化に加えて、デジタルソリューションにも応用できると気づいている。つまり、デジタルカイゼンのカギを握っているのは、経営者が企業でDXを推進しようとする意思なのである。その意思こそが、現場の従業員の内発的モチベーションとスキルを活かし、自発的なイノベーションを加速する。デジタルカイゼンとは、単に情報の流れを自動化するという次元を超えた取り組みなのである。


"How Your Company Can Encourage Innovation from All Employees," HBR.org, September 19, 2022.