ソリューションのスケールアップ
現場でのイノベーションが抱えるもう一つの問題は、ソリューションを別の拠点や部署に広げることが難しい点である。アイデアが特定の顧客や特定のクリエーター、特定のプロセスに「粘着」してしまう場合も少なくない。
さらに複雑なことに、組織が異なると「NIH症候群」(
組織が異なると「NIH症候群」(
デジタルカイゼン・プラットフォームは、そのような事態の防止に役立つ。まず、ユーザーはシチズンデベロッパーが提案したソリューションを検索し、プラットフォーム上のツールを自身のニーズに合うようカスタマイズする。そうすることで、彼ら自身もシチズンデベロッパーになるわけだ。
もっとも、その機能だけでは十分ではない。スケーラビリティの重要な条件は、そのソリューションによって複数のターゲットユーザーが共有する問題を解決できることだ。この条件を満たすためには、アイデアの提供者が、あるタスク(典型的なものとしては、時間がかかり、エラーが起こりやすいプロセス)の自動化について同僚の関心を確認すると同時に、タスクの実行方法がユーザーごとにどのように異なるかを理解することが必要となる。また、ソリューションが複数の用途に対応できるよう、追加の開発作業も必要だ。
このような情報収集と開発努力を奨励するために、PwCの自動化担当リーダーらはシチズンデベロッパーに対し、拡張可能なソリューション作成へのインセンティブ──ボーナスとキャリアアップ、そしてシチズンデベロッパーの尊重──を用意し、それらを同僚による自動化ソリューションの採用・使用状況と連動させた。ダウンロード数、使用率、ユーザーからの評価がプラットフォーム上で追跡されるため、PwCは透明性を確保した状態で、プラットフォーム上でのユーザーパフォーマンスを報酬に結び付けられる。
さらに、このプラットフォームでは、利用者も容易にソリューションに変更を加えられる。そのおかげで、開発者以外の人がソリューションの新たな「リリース」を作成でき、自動化のアイデアのスケーラビリティがいちだんと高まる。
たとえば、PwCのサンフランシスコオフィスの監査役が、ベルリンオフィスの監査役のソリューションにマイナーチェンジを加えた事例がある。これが可能なのは、両者のビジネスに共通点が多く、データ入力形式が国によって異なるだけだからだ。
デジタルカイゼン・ソリューション普及のメリットは何だろうか。それは、生産性向上の恩恵を限界費用ゼロで繰り返し得られるため、その規模が時間とともにスケールアップしていくことだ。PwCにおける7000件の自動化ソリューションは計500万回以上ダウンロードされており、700万時間以上の作業(PwCではこれが生産性向上の大まかな指標だ)を自動化してきた。