行動できないなら、初めから聞かない

 筆者は何年も前から、他人の情報を流したがる人に対し、ある鉄則をもって境界線を引いている。会話がゴシップの方向に向かっているのに気づいたら、礼を失しないように遮り、自分が聞いた情報に基づいて行動する可能性があることを伝える。それによって、話すことには責任が伴うと相手に理解してもらい、情報を自分の胸にしまっておくという「逃げ道」を相手に与えることができる。

 先の例では、ベスはすでに決定的な情報を口にしてしまった。このような時点では「ガレスが私に問題を感じていることを知らせてくれてありがとう。彼と話し合ってみます。あなたの名前を出す必要はないと私は思いますが、彼のほうが、あなたが私に伝えたと思うかもしれませんね」と話す。それで彼女が動揺しても、やはり境界線を維持すべきである。こう言ってもよい。「いずれにしろ、ガレスとこの件で話し合うつもりです。もし、この件を私に話したとガレスに知らせるために、1日か2日欲しければ待ちますので、どうぞ、そうしてください」。もしベスが知らせないという選択をしたら、あなたは遠慮なく次の行動を起こせばよい。

 もちろん、このアプローチには、人々があなたにゴシップを伝えることを思い留まるようになるというリスクがある。一部の情報は手に入らなくなるかもしれない。それでも、あなたの姿勢が周囲によい影響を与えれば、より健全な職場環境を構築することができるだろう。

対処すべき問題から対処する

 次はガレスと話し合う番だ。このようなゴシップには、2種類の会話が必要になる。一つはプロセスについて、もう一つは内容についてである。

 ほとんどの人は、まずプロセスの問題を取り上げようとする。ガレスが陰でこそこそ悪口を言っていたという事実である。あなたは、ゴシップの内容は無価値だと思い、あなたを最も苦しめていること、つまり彼が「根も葉もない嘘」を不適切な方法でばらまいたことについて、すぐさま問い詰めたくなるだろう。しかし、よりよい進め方は、「陰口をたたいた」ことを問うよりも、まずは内容の問題、すなわちガレスが懸念しているあなたの能力の問題に焦点を当てることだ。

 ここでは謙虚さが大切だ。「陰口を叩くなんて、恥を知りなさい」という姿勢で会話を進めるのではない。またそのような姿勢を暗黙の前提にもしてはいけない。むしろ「もし私が何らかの意味であなたの期待を裏切っているのなら、それをきちんと理解したいのです。もし私のスキルが足りないというなら、フィードバックをしてください」という姿勢で取り組む。

 このアプローチはいろいろな面で有益だ。第1に、もしその人の懸念に一理あるならば、フィードバックをもらうことは、あなたのためになる。第2に、売り言葉に買い言葉のような反応でのやり取りを避け、今後、個人的な対立がエスカレートすることを防げる。第3に、フィードバックに対する開かれた態度と、相手に説明責任を求める意志をあなたが示すことで、次に問題に直面した時、相手がよりよい選択をする一助となる。

 もし相手がそれは誤解だと言ったり発言を矮小化したりし始めても、そこでたじろいではいけない。フィードバックを求めていることをもう一度繰り返し、何か懸念があれば率直に伝えるように促そう。

プロセスの問題を話し合う

 相手の懸念をよく検討したのちに初めて、間接的なやり方でフィードバックが届いたことについて、生産的に説明責任を問うことができる。

 今後は、ほかの人に言う前にあなた自身に直接不満を伝えることを約束させよう。そして、あなたも相手に対してそうすると約束する。前段階で、謙虚な姿勢でフィードバックを引き出せていれば、あなたは道徳的権威をもって、また安全に、間違った行動をとった責任を相手にとらせることができるだろう。

 以上のように対処したからといって、今後ゴシップがなくなるという保証はない。しかし、このような対処を行えば、あなたは問題を永続化させずに済むうえ、確実に解決に資することができる。


"How to Handle Office Gossip When It’s About You," HBR.org, August 26, 2022.