DXの3段階は、それぞれ異なる機会を提供する

 3つの段階は組織学習において、それぞれ異なる機会を提供する。最初の2つの段階である「モダナイゼーション」(近代化)と「全社的な変革」は、既存のビジネスを再構築することに焦点を当てるものだ。最終段階の3つ目で、新たなビジネスを創造し、新たな価値の源泉を発掘する。

 それぞれの段階で、厳しい体験を避けるのが困難であることは、私たちの経験からも明らかだ。第1段階を成功させる前に第2段階や第3段階を始めてしまうと、失敗する可能性が高い。

 ●第1段階:モダナイゼーション

 モダナイゼーションは、既存のプロセスや機能を簡素化し、デジタル化することだ。顧客体験では、カスタマーアプリの設計や新しいセルフサービスにおけるタッチポイントの実装などが考えられる。オペレーションでは、製品のインターネット接続やコアプロセスのデジタルリエンジニアリングなどが挙げられる。従業員体験の場合には、HRプロセスの自動化や従業員向けのセルフサービスポータルの提供などが、これに当たる。

 このようなデジタルプログラムはほとんどの場合、組織の変革にはつながらない。この段階は過小評価されがちで、蔑ろにされることさえあるが、それは誤りだ。住宅の基礎工事と同じように、組織のデジタル面をより強く、よりスマートにするための土台である。また、より複雑なデジタル投資を促進させるという、合理的かつ迅速なリターンをもたらす。組織がデジタル能力を向上させる絶好の機会である。

 ●第2段階​:全社的な変革

 全社的な変革とは、複雑なクロスバリューチェーンを変化させる取り組みを指す。たとえば、小売業者の場合には、物理的なチャネルとデジタルチャネルのすべてにおいて、完全に統合された顧客体験を目指すことが、これに当たる。オペレーションでは、コンディションメンテナンスのためのIoT(モノのインターネット)アプリケーションや、受注から入金までのプロセスの自動化などが挙げられるだろう。従業員体験の場合、アジャイルな働き方の制度化、継続的な学習やリスキリング文化の確立が考えられる。

「これらが変革の取り組みなのか」と疑問に思うかもしれないが、間違いなくそうである。サイロ化した組織や部門間の連携を図り、適切なガバナンスモデルを確立して、新たな能力などを加える。これらはすべて、変革を成功させるために必要な「筋肉」として鍛えられるべきものだ。

 全社的な変革は通常、既存オペレーションの改善に重点が置かれる。成功すれば、新規顧客へのアプローチや、これまでにない効率的なオペレーション手法の発見など、新たな価値創造の機会を切り開くことができる。全社的な変革は部門横断的で複雑だが、DXの成熟に向けて、欠かすことのできない学習段階である。