Peter Adams/Getty Images

中国市場から、多国籍企業が撤退をはじめている。筆者によると、これは地政学による問題がすべてではなく、中国市場への参入戦略に関連があるという。成功のパターンは毛沢東による中国共産党の拡大に通じるというのが筆者の主張だ。​地方の農村部で支持を得た後に、全国展開を果たすという順序である。近年、中国市場への参入に成功した企業にも、この戦略は共通していると指摘する。

中国市場での成功は毛沢東の戦略に通じる

 記録的な数の多国籍企業が、中国市場から撤退をはじめている。リンクトインは参入から8年、カルフールは24年で撤退を決めた。ほかにもウォルマートマクドナルドなど多くの企業が中国事業の株式を売却し、店舗を閉鎖している。

 もちろん、これには明白な理由がある。超大国を目指す中国と、伝統的に支配力をふるってきた西側の資本主義民主主義諸国の間で政治的・経済的摩擦が激化しているためで、その結果、中国への投資リスクが高まっているのだ。最近はあらゆるところで、中国との「グレート・デカップリング」という言葉を耳にする。

 ただし、地政学がすべてではない。欧米の多国籍企業は、現在のような緊張状態になる以前から、中国市場で苦戦を強いられてきた。一方で、緊張状態にあるにもかかわらず、中国市場で非常にうまくいっている欧米企業もある。多くの場合、問題は地政学ではなく戦略にあるという考え方は、検討に値するだろう。

 対照的な例を見てみよう。

 家電大手のベスト・バイは 2006年、中国の複数の大都市中心部に、広大なショールームを擁する大規模店舗をオープンした。2008年の北京オリンピックと2010年の上海万博を前に、中国が急速に都市開発を進めていた時に、新興消費者層を取り込もうとしたのだ。

 必勝の戦略に思えるだろう。しかし、ベスト・バイは大敗を喫し、中国での市場シェアは1.8%に留まった。わずか数年で数千万ドルの損失を出して、2011年に中国市場からの撤退を決めた。

 もう一方の例は、半導体メーカーのAMDだ。2020年には中国は同社にとって最大の市場となり、23億ドルの売上げを計上している。インテルからシェアを奪い、自社製品の熱狂的なファンを大切にして、ロゴ入りグッズなどを販売する特設サイトまで開いた。AMDの成功を受けて、インテルも同様の戦略で対応せざるをえなくなり、内陸部の農村部の市場向けにローエンドプロセッサーや携帯電話を開発している。