職場で持続的な友情を築く

 職場環境が完全対面型、完全リモート型、あるいはハイブリッド型のいずれであろうと、友情を重視し促進する文化は、従業員にとっても企業の収益に対しても有益である。マネジャーはどうすれば、数値で計測できる成果を出しつつ、世界に蔓延する孤独という病と闘えるような友情に配慮した職場をつくり、維持できるのだろうか。いますぐ実行すべき対策をいくつか挙げよう。

 ●バディ制度を確立する

 誰にでもバディは必要だが、特に新入社員にとっては欠かせない。経験豊富な従業員と組ませれば、オンボーディング(新人研修)がはかどり、生産性も高まる。職場のバディは、物の置き場や暗黙のルールなどの情報を提供するだけではなく、社内のほかの人々とつながりをつくるうえでも力になってくれる。たいてい、このような最初のつながりの中から長期的な関係に至るものが生まれる。

 バディ制度の効果のカギを握るのは、交流の頻度である。マイクロソフトの場合、勤務開始から最初の90日で8回以上バディと会った新規雇用者のうち97%が、バディのおかげですぐに高い生産性を発揮することができたと答えた。しかし、初めの90日でバディに1回しか会わなかった新規雇用者で、同じように答えた人は、56%に留まった。

 ●顔を合わせる時間を増やす

 パンデミック以前の職場は、一緒にコーヒーを飲んだり、昼食を取ったり、廊下でばったり会えば言葉を交わしたりできる場所だった。2020年からフルタイムのリモート勤務になった人にとって、最大の変化は職場の友人と交流する時間が激減したことだった。

 友情を築くには、話したり、会ったり、一緒にいたりすることが必要だ。ズームやフェイスタイムなどのビデオ通話もあるが、つながるための最善の方法は顔を合わせることである。最低でも、同僚と話をする時間を増やし、メールを減らそう。友情を築くためには、メールよりも対面が有効である。メールのほうがずっと、相手が言おうとしていることを取り違えやすい。

 ビジネスリーダーは模範を示す必要がある。まず対面のコミュニケーションを増やし、メールを減らそう。さらに対面でのやり取りを促進するために、期待を修正し、新しい文化規範を確立し、職場の構成を更新する。

 たとえば、クロストレーニングを促進したり、一つの職務を交替で担当させたりすることによって、社内のほかの領域の人と協力する状況をつくり出す。新しい人々に触れることは、新しい友人に出会うチャンスになる。対面のソーシャルイベントやミーティングやランチを計画するのもよい。作業空間を近づけることも必要だ。共通の使命のために集まったさまざまな立場の人々と、これだけ多くの時間を過ごす場が、職場のほかにあるだろうか。ほかの人との協働がこれほど必要とされる場が、職場以外にあるだろうか。

 ●常にジャムセッションをする

 共通の目標を持って何か価値あることを一緒に達成すると、つながりが生まれる。力を合わせて魔法を生み出すところに喜びがある。『エコノミスト』誌に掲載された記事では、高いパフォーマンスを発揮したチームの例としてビートルズを取り上げている。

 ビートルズは、自分たちの仕事を愛している。演奏していない時も、音楽について語り、音楽のことを考えていた。自分たちの曲を何度も録り直し、しょっちゅうジャムセッションに興じていた。

 共同作業の「ジャムセッション」に参加したことがある人ならば、この感じが分かるだろう。従業員も同じで、楽しみながら、何か価値のあるものを創り出す満足感と誇りを感じたいと思っている。親友は互いを信じ、受け入れ、許し合う。ギャラップの調査によれば、親友のような関係にある従業員たちが一緒に仕事をすると、顧客や社内のパートナーを引き込み、より短時間で仕事を成し遂げ、職場をより安全にし、斬新なアイデアを出して共有し、仕事を楽しむ傾向が著しく強くなる。

押しつけない

 パンデミックのおかげで、ほぼ義務的なハッピー・アワー(勤務後、同僚と一緒に飲みに行く時間)や、従業員が遅くまで残って楽しくチーム形成をするためのゲームやカラフルなおもちゃにあふれた「幼稚園的オフィス」の時代は終わったのかもしれない。バンクーバーを拠点とするコンサルティング会社プレイフィシェントの設立者、ポール・ロプシンスキーは「そのような文化が本当に重んじているのは楽しさではなく、従業員を遅くまで残らせることだ」と言い切る。

 会社の方針や研修やタイムシートを義務づけることはできるが、友人づくりを強制することはできない。従業員が会社のパーティを思い浮かべた時、嫌悪を示してしまうことは、望ましくないだろう。

 職場の友情はビジネスの成果に有益であると証明されているにもかかわらず、あなたの会社が友情の構築を妨げるならば、「友情を無視することは、人間性を無視することである」という大前提を思い出そう。会社の方針と人間性が争った場合、人間性が必ず勝つ。人は命令が何であろうと、自分の社会的ニーズを満たそうとするという研究結果がある。企業は、このようなソーシャルキャピタル(社会関係資本)の力に抗うよりも、それを利用するほうが、はるかにうまくいく。

 最近出版された拙著、Blind Spot: The Global Rise of Unhappiness and How Leaders Missed It(未訳)でも述べた通り、孤独はあまりにも日常化している。米国では、従業員の10人中2人が1日の多くを孤独を感じながら過ごしている。頼れる友人がいない従業員にとって、仕事は惨めなものだろう。孤独な従業員の生活は失業している時より悪化してしまうおそれがある。しかし、会社が従業員の社会的ウェルビーイングの優先順位を上げ、職場で友人をつくる機会を提供するなら、人類をこれほど苦しめている孤独という病の蔓延を食い止められるかもしれない。


"The Power of Work Friends," HBR.org, October 07, 2022.