
十分な能力があるにもかかわらず、周囲と過剰に比較して自身を過小評価してしまうインポスター(詐欺師)の感情を持つチームメンバーはいないだろうか。インポスターの感情を持っている人の判別は難しく、気がついた時には退職に至ってしまうケースが少なくない。本稿では、マネジャーがチームメンバーのインポスター感情を事前に察知し、対処するための4つの戦術を紹介する。
マネジャーがチームのインポスター感情を軽減する戦術
従業員に自信と安心を与え、サポートすることは、どのようなマネジャーにとっても困難な課題だ。特に、従業員が自分は能力が十分ではない、必要なスキルがない、あるいは任務や昇進を獲得したのは単に運が良かっただけだと誤解している場合はなおさらだ。インポスター(詐欺師)の感情は蔓延しているため、あなたの部下にもこの感情を持つ人がいる可能性は高い。
たとえば、メアリー(仮名)は、大企業に勤める有能なプロフェッショナルだった。大学卒業後、自分の学位と少し関連のある職務に就いたが、周囲にはより有名な大学を卒業し、仕事に直接関係する学位を持つ同僚がいた。彼女は上司や同僚から高い評価を受け、部署内で出世していった。しかし、心の中では「自分には無理だ」「同僚のほうが優秀だ」と思っていた。自分の知識の少なさが人に知られてしまうことをおそれ、部門のトップに昇進するとその思いはさらに強くなった。
メアリーは、会議で常に知識が豊富に見えるよう、深夜までリーダーシップについての論文や手引書を読んだ。上司や部下からの評価は高いままだったが、自分が見かけ倒しであることを見破られるのではないかという恐怖が、メアリーを苦しめ続けた。つまり、彼女は自分がインポスターであるかのように感じていたのだ。
ある日、彼女は上司に、自分が「場違いである」と感じていることを打ち明けた。すべてがうまくいっているように見えていたため、上司はショックを受け、メアリーが不満を抱いていて、彼女を失うかもしれないと心配した。上司は、組織内の同等の地位に異動できるように取り計らったが、彼女のインポスターの感情を解消することはできなかった。それどころか、事態は悪化した。メアリーは、トップパフォーマーであり、同僚から慕われていたにもかかわらず、最終的に組織を去ってしまったのだ。
メアリーの上司が、彼女の退職を防ぐためにできることは何もなかった。メアリーが自分の気持ちを打ち明けた時には、もう手遅れだったのだ。彼女の自信のなさは内面化されており、上司が彼女の不安を和らげるためにできることはほとんどなかった。
だからこそ、事前に対策を講じることが大切なのだ。筆者らは過去6年間、インポスターの現象について研究し、指導してきた。そして、マネジャーがチーム内のインポスターの感情を軽減するために使える4つの戦術を明らかにした。