タイミングを見極める
3つのポイント

 最初に行った定性調査では、「タイミングを見極める」とはどういうことかを詳しく調べた。米国の26業種150人ほどの一般社員を対象に、上司に伝えたい問題やアイデアを思いついたものの、しばらく自分の内に留めておいた経験について説明してもらった。具体的には、なぜそうすることにしたのか、そのアイデアや懸念を最終的に示した時、何が起きたかを聞いた。

 その回答を数値化したところ、戦略的沈黙には3つの重要な要因があるとわかった。筆者らは、これを「3R」と呼ぶ。

関連性(Relevance)

 部下は、みずからの意見がチームの現在のアジェンダにそぐわない時、問題提起を差し控えることがある。

 たとえば、ある上級システムアドミニストレーターは、「データベースシステムの統合案を思いつきましたが、別の大型プロジェクトの終了が近くなるまで、伝えるのは差し控えました」という。「数カ月先まで(新しいプロジェクトに)取り組む余力がないので、いますぐ問題提起しても意味がありませんでした」とその理由を語る。

準備(Readiness)

 部下は、自分のアイデアを伝える準備ができていない時、発言を差し控えることがある。追加データを集めたり、解決策をさらに考えたり、メッセージをどのように位置づけるか考えたりする時間が必要な場合があるのだ。

 あるリタイアメントコンサルタントは、「顧客に新しい商品を売り込んで収益を上げる案を思いつきました」という。しかし彼は、まずマネジャーが聞いてきそうな質問に回答するためのリサーチをしようと、すぐに新たなアイデアを伝えることは控えた。

反応(Responsiveness)

 部下は、上司に余裕がないことを見て取ると、戦略的に発言を控え、上司が自分の話を聞いてくれる認知的な余裕ができる時まで待つ。ある栄養士は、同僚のカバーに入る頻度が常識的なレベルを超えていたが、上司にはしばらく伝えなかった。上司もストレスがたまり、「やるべきことがたくさんあった」からだ。

 これらのうち少なくとも一つの要因から、上司への提言を遅らせたという部下の88.7%は、最終的に意見を伝えた際、上司から肯定的な反応を得たという。それに対し、戦略的沈黙を実践せず上司に提言を行った人は、61.1%しか肯定的な反応を得られなかった。筆者らは、3つのフォローアップ研究を行うことで、この発見をさらに検証した。

 インドで実施した2つの現地調査では、さまざまな企業や業界で働く一般社員に、アイデアや懸念を口にする頻度と、その際にどれほどの割合で戦略的沈黙を実践するのかを尋ねた。そのうえで彼らの直属の上司に、部下からのインプットがどれだけ貴重で有用だったかについて、点数をつけてもらった。さらに、部下のパフォーマンスと彼らが昇進や昇給を得る可能性について、一般的な評価を提供してもらった。

 すると、高い頻度で戦略的沈黙を実践した一般社員に関しては、その発言の質とパフォーマンスに対する評価が、ほかの一般社員を大幅に上回った。ところが、戦略的沈黙をめったに、またはまったく実践しない一般社員は、その発言が高く評価されたり、成果報酬がもたらされる可能性が低かった。

 最後に、米国でプロフェッショナル職に就く742人を対象に、オンライン実験を行った。参加者には自分をマネジャーだと思ってもらい、所定のアジェンダとはやや外れた提案を行った部下への反応を聞いた。この実験においても、部下が問題点を提起するタイミングについて戦略的に配慮すると、マネジャーはその意見の質や部下のパフォーマンスを高く評価することがわかった。

 以上をまとめると、筆者らの研究結果は一貫して、マネジャーは戦略的沈黙を実践する部下を評価し、高い報酬を与えることを示していた。このことから、次に何かアイデアが浮かんだら、「3つのR」をチェックしてほしい。そのアイデアがその時の状況に関連しており、さらにあなたから提案する準備ができていて、上司にすぐ受け入れられる可能性がある場合を除き、すぐさま提案するのは控えよう。

 この3つの条件をクリアしていないアイデアは、聞き入れてもらえない可能性が高い。条件を満たすまで提案を差し控えれば、そのアイデアはよい形で受け入れられ、あなたのキャリアにもきっとよい影響をもたらすだろう。


"When Speaking Up, Timing Is Everything," HBR.org, October 26, 2022.