マサチューセッツ大学のホンカン・スーと、イリノイ大学およびトレド大学の研究チームは、企業間信用取引の状況や支払いサイトの長さと、SECのフォーム10-Kの読みやすさの関係について調査した。2004~2016年の期間に、4754社を調査した結果、10-Kが読みにくい取引先は、信用を得にくいことが明らかになった。

 パリ・スクール・オブ・ビジネスのハテム・リジバが率いるチームは2021年、フォーム10-Kが読みにくいと、株式コストが高くなることを発見した。開示される文書が否定的または曖昧なトーンの場合、そのコストはさらに高くなった。1995~2017年の文書と株式コストを調べたところ、読みやすさを示すスコアが悪い企業の株式資本コストの平均追加コストは、57ベーシスポイントだった。

 この種の研究は増えており、ある研究では、文書が複雑だと負債資本コストが77ベーシスポイント上昇することが示唆されている。別の研究では、10-Kの複雑さが監査の費用と期間を増加させることがわかった。また、文書の複雑さが、M&A(企業の合併・買収)において被買収企業の買収プレミアムを低下させることや、10-Kが読みにくい企業との提携を発表した企業の「累積異常リターン」が減少することも示されている。

 読みにくい文章がもたらす弊害は、脳の働きに起因している。心に魅力的な刺激(この場合は優れた文章)を与えないと、さらに読みたいと思わせるような喜びを与える神経化学物質の反応を得られないことが科学的に証明されている。反対に、優れた文章を提示すれば、ドーパミンなどの化学物質が放出され、読み手は夢中になり、読み続けてくれるのだ。

 たしかに、読み手のモチベーションを高める秘訣がすべて科学で明らかになったわけではない。流暢さに関する研究のほとんどは、相関関係に基づいている。読みやすさと経済的利益との相関関係は、因果関係を示唆するものではあるが、それを裏付けるものではない。

 最近の研究は、この点で大きな成果を上げている。そのうち3つは、1998年にSECの規則が施行された際、開示内容が前年比でどれほど改善されたかを調査したものである。これは切り替えに伴う1度きりの調査になるため、「読みやすさ」を独立変数とすることができる。そして実際に、この期間のデータはわかりやすさが財務的な利益を生むことを示している。

 残念ながら、多くの企業はわかりやすい文書がもたらすパワーをまったく理解していない。マサチューセッツ大学のジェレマイア・ベントレーらによると、証券法規則421の基準に基づく2003~2019年の開示文書は、よりわかりづらいものになっている。

 自社が開示する文書の読みやすさを向上させたいのであれば、最初に取り組むものとしてSECのハンドブック以上の手引きはないだろう。ハンドブックは、読者や投資家があなたの会社に関心を持つための助けになる。

 また、脳の言語処理についての研究も急速に進んでいることから、ほかの戦術も参考にするとよい。筆者の近刊からその一部を紹介しよう。

1. 副詞や形容詞を少なくする:強い動詞と名詞を使う。副詞や形容詞は、オペラの最中にされる咳のように、文章の明瞭さを損ねてしまうことが多い。
2. 分割する:文章を短く分割する。あるプロフェッショナルはこのように述べている。「ピリオドは早ければ早いほどよい」。
3. 注意書きをカットする:どのような論点にも例外があり、どのようなトピックにも文脈が必要である。しかし、特に免責事項を引用するのでなければ、ぼかすような言葉は最小限に留めたい。
4. 不要な言葉は削ぎ落とす:ドラフトを書く時には、推敲し、補強し、繰り返し、言い換えるはずだ。最初に立ち返って、重要でない言葉は削ぎ落としていこう。
5. 短くまとめる:読み手が必要とする以上のことを書かない。

「言葉がシンプルであればあるほど、利益をもたらす」。次に文章を書く時は、この「レビットの原則」を念頭に置いてほしい。


"Research: Simple Writing Pays Off (Literally)," HBR.org, October 11, 2022.