多様な従業員に対応する
米国ビジネス界におけるオフィス復帰への反発の一部は、結局のところ古いプロフェッショナリズムに対する拒否反応である。仕事文化全般、そして特にオフィスの設計は、より複雑で多様な従業員基盤を反映しなくてはならない。身体障害や認知障害を抱える人々を含めてだ。
このため、リンクトインの新本社について我々が下した選択は、すべてインクルーシブ・デザインの原則に基づいている。麻痺性の疾患、視覚や聴覚の障害、ニューロダイバーシティ(脳の多様性)、不安といった症状を考慮して、傾斜路、照明、まぶしさ、音響面の刺激度、プライバシーのレベル、60種類の姿勢に対応する家具など、あらゆるものを検討した。
また、服装やその他の出社に関する規範を、以前よりも柔軟にすることを明示した。我々はこれを「新しいプロフェッショナリズム」と呼ぶ。この方針の下では、従業員は堅苦しさを減らし、自分らしさと個人の快適さを優先して、ありのままに近い自分を職場に持ち込むことができる。
これは、過小評価グループ出身の従業員の多くに、抵抗感なくオフィスに復帰してもらうためにも重要な方法であった。彼らは通常、コードスイッチングの必要性が少ないという理由で在宅勤務を好むためだ(訳注:ここでのコードスイッチングとは、他者を快適にさせるために自分の話し方や外見、振る舞い、表現を調整し、その見返りに公平な対応などを求めること)。
テストを繰り返して調整する
オフィスが過ごしたい場所であれば、人々はそこを使うはずだ。ゆえに我々は取り組みのプロセス全体を通して、テスト、実験、調整のマインドセットを取り入れている。何がうまくいき、何を変えるべきかを学ぶために、従業員からのフィードバックを頻繁に求める。
たとえば、従業員に手書きのコメントを残してもらえるよう、建物の至るところに置かれたイーゼル、頻繁なアンケート調査、フィードバックフォーム、フォーカスグループ、聞き取り調査、出勤状況やセンサーマッピングといった定量的データなどだ。
調査対象の一つは、会議・ミーティングに最も適した部屋のタイプである。屋外か、屋内か。長テーブルと椅子か、ソファか、ラウンジチェアか、スタジアム型の段床か。あるいは、これらすべてが当てはまるのか。
これまでのフィードバックに基づき、ハイブリッドワーク従事者に向けてよりいっそう優れた体験を創出するために、テクノロジーとAVシステムに変更を加えている。また、会議室の椅子を軽量のものに変えている。さまざまなミーティングの形態に合わせてスペースを調整しなくてはならないチームを、より適切にサポートするためだ。
もう一つの継続的な課題は、オフィスワークとリモートワーク間の移動に従業員がうまく対処できるよう支援する方法だ。特にエンジニアなど、ハードウェア面で特殊かつ煩雑なニーズを持つ人たちをどう支援するかである。
実際に最も利用されている仕事スペースは、標準的なデスクと電話ルームであることが、頻繁なテストとイテレーションを通じて判明した。ただし、そこにはハイブリッドワークに必要なすべてのテクノロジーが備わっていなくてはならない。
たとえば、ビデオ会議とデジタルホワイトボードの一体型ソリューション(例:タッチ、手書き、ビデオ会議の機能を兼ね備えたもの)、ペアコーディングやチームでの協働をサポートする調節可能なデュアルモニター構成などだ。
しかし、我々はいまだに自問している。交流スペースは必要なのか。大規模なチームと小規模なチームにとっての、最適な構造はどのようなものか。デスクは必要なのか。次の四半期や来年に、従業員は何を必要とするのか。この場所にあるテクノロジーは、接続性と生産性を後押しするのか──。
実際、新本社を1月にオープンして以降、明らかになったことがある。従業員は自宅かキャンパスのどちらでも自由に仕事ができるにもかかわらず、厳密には本社ではない社屋に配属されている人々の63%が、いまでは本社に向かい、この場所が提供するさまざまな仕事場、快適な設備を利用しているのだ。
従業員の有能感と仕事の楽しさを後押しするために、我々は今後も彼らの提案に耳を傾け、ほかに何が従業員を引き寄せる可能性があるのか、それを踏まえてどのように実験すればよいかを見極めていくつもりだ。
すべてをうまく実行できているわけではないことを我々は自覚しており、すべてが計画通りに運ぶという期待は持っていない。肝心なのは「なぜ」と問い、設計を微調整し、再度テストすることだ。いずれにせよ今後の段階では、最終的な答えを出すことよりも、進化する仕事の世界に十分適応できるダイナミックなオフィス空間を創出することが主眼となる。
"How LinkedIn Redesigned Its HQ for Hybrid Work," HBR.org, October 21, 2022.