コーチとしてサポートする

 人事部のリーダーは、同僚や上司に言いにくいことを上手に伝える方法を教えることで、悩みを抱えた従業員をサポートできる。たとえば、自分がバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥ったことをどのように上司に伝えるか、プロジェクトのスケジュールに関する同僚の意見にどう反対すればいいか、有害な職場文化にどのように警鐘を鳴らせばいいか、といったことだ。

 このような人間関係の問題に直面した従業員をサポートするには、まずその従業員の話に耳を傾ける。そして、決めつけたり、イエスかノーを聞いたりするのではなく、自由な答えを促す質問をする。そのうえで、その従業員が上司や同僚と話をする時を想定したロールプレーをして、適切なアプローチ方法を話し合い、どのような展開になるかインサイトを提供しよう。

 実際に従業員と上司、または同僚の間で話し合いが行われる時に、人事部のメンバーが同席する必要はない。しかし、従業員の準備を手伝い、インサイトを提供し、コーチングの時間を設けることで、彼らの問題解決を手助けできる。コーチとは、一回限りの解決すべき課題に付き合うのではなく、相手の成長に興味関心を示すものだ。そのような態度を取れば、相手はコーチを信頼し、そのサポートを求めるようになるだろう。

メンターとしてサポートする

 重要プロジェクトで連携や合意が得られない、周りとコミュニケーションスタイルが違う、上司や同僚から無礼な態度を取られる――。従業員がこのような人間関係にまつわる問題を抱えて人事部にやってきたら、メンターの役割を果たすチャンスだと考えよう。

 これを記録したり、改善するよう取り計らおうとするのではなく、中立的な役割を果たし、現状に至る原因となる過去の出来事を考えてみるよう従業員を促す。これまではもちろん、現在も起きている対立において、従業員がうまく振る舞えなかった点を一緒に見つけ、仲裁に入ったり、次のステップを提案したりしよう。また、激励し、サポートを申し出よう。

 メンターは、役に立つ人間関係のスキルを授けることで、従業員の成果へとつなげることができる。従業員はこのスキルをマスターすることで、不公正な判断をする前に他人を思いやれるようになる。さらに、対立していても共通する目的を探すことができたり、尊敬と理解を示すことで心理的安全性が担保された中で会話できたりするようになる。従業員は、自分が求めるスキルをまるでプロのように示してくれる人のほうが、助言や支援を求めやすいものだ。

仲介役としてサポートする

 第3のアプローチは、従業員がみずから直面している問題を1人では解決できない時、仲介役として介入するという方法だ。この場合、それぞれの意見を別々に聞いたうえで、双方にとって有益で建設的な話し合いの場を用意する。

 まず、ミーティングの最初に基本的なルールを定めよう。このルールでは、それぞれが自分の言い分を述べるチャンスが認められている。その際、「あなたは私が怠け者で無能だと思っている」といった結論ではなく、「あなたは声を荒げて、私が締め切りに遅れていると言った」という、事実と具体的な振る舞いを説明するよう促そう。それぞれの言い分をあらためて語ってもらうと、当事者たちは自分の話に耳を傾けてもらっていると感じることができる。

 そのうえで、共通する目的や尊敬している部分を確認し、そこから実現可能な解決策をつくり上げていこう。たとえば、「2人とも、質の高い成果を出すことに尽力していますね」などといった形で確認するとよい。それが両者を解決へと導く生産的なアプローチになる。あなたが中立的かつ公平な立場で仲介することが重要だ。

 いま、あなたの所属する人事部へ相談に訪れる従業員がいないなら、彼らが信頼できると感じるレベルまで人事部の評判を引き上げるには時間がかかるだろう。上記の3つの役割を果たすため、必要なスキルの習得を目指せば、人事部のサポートを必要とする従業員を救えるだけでなく、人事部のリーダーであるあなた自身も救われることになるだろう。

 従業員の支援者として信頼される人事部リーダーは、組織の文化やオペレーション上の課題を内側から見ることができ、それを解決すればこれからの会社の成長を大きく後押しできるはずだ。


"How HR Lost Employees' Trust - and How to Get It Back," HBR.org, October 19, 2022.