人事部が社員の信頼を得る3つのアプローチ
Martin Barraud/Getty Images
サマリー:この数十年間、人事部は従業員から信頼される支援者となるべく、進化を続けてきた。しかし実際に、人事部に悩みを相談するような従業員はほとんどおらず、従業員に寄り添うような存在にはなれていない。そこで本稿で... もっと見るは、人事部がコーチ、メンター、仲介役になるという3つのアプローチを通して、従業員からの信頼を獲得し、彼らの支援者となる方法を紹介する。 閉じる

なぜ従業員は悩みを
人事部に相談しないのか

 ほとんどの人事部は、従業員のために働いているとはとても言えない状況にある。筆者らが従業員993人を対象に行なった最新の調査において、上司からの扱われ方や同僚の無礼なふるまいなどについて悩みがある時、人事部に相談するケースは極めて稀であることが明らかになった。

 まず上司に相談し、次に信頼する同僚に相談する。そして、どちらもうまくいかなければ、自分で解決しようとする。人事部に相談する前に、組織内の別のリーダーに相談したり、何もしなかったりすることさえある。

 これは多くの人にとって、驚くような結果ではないだろう。皮肉なことに人事部は、受け身で法令遵守ばかりを重視する昔ながらの部署から、信頼されるリーダーのように、従業員をサポートする存在としての部署に生まれ変わろうとして、この数十年間、発展途上にある。新しいモデルでは、人事部のリーダーは経営幹部の一人として、組織文化についてボードメンバーに助言し、従業員と彼らの要求のために声を上げる存在になることが求められる。

 しかし、筆者らの研究で、この2つ目の役割をきちんと果たしている人事部はほとんどないことが明らかになっている。コンプライアンス担当者から従業員の支援者へと変わろうとする努力がなされていても、従業員はまだ人事部を信頼していない。これは問題なのだろうか。もしそうであれば、何をすべきなのか。

 なかには、この調査結果を認めず、従業員が上司に相談するのはよいことだと主張する人事部のリーダーがいるかもしれない。しかし、筆者らの研究によると、従業員が上司に相談するのは、リーダーに対する信頼が高い証拠ではなく、人事部に対する信頼が低い証拠だとわかっている。筆者らが行った調査において、回答者の半数近く(47%)が上司に安心して不満を伝えたり、秘密を打ち明けたりできないと感じている。また、上司が自分の味方になってくれるという確信もない。

 結局のところ、多くの従業員の懸念は、その大小にかかわらず、聞き届けてもらえず、解決されないままだ。リーダーはそのようなリスクを冒すべきではない。

 人事部に相談しにくい理由を尋ねたところ、回答者の37%が人事部は従業員よりも会社側に立つと考えられるから、と答えた。従業員が人事部に相談しやすい悩みを聞くと、トップはセクシュアルハラスメントや差別、倫理などに関する典型的な規則違反やコンプライアンス問題だった。

 一方で、問題のある人間関係や、リーダーのコミュニケーション方法、戦略やビジョン・指示の出し方など、文化やモラルが関わる悩みになると、依然として人事部のリーダーには相談しないケースが多かった。回答者は、自社の人事部のリーダーには、変化を起こす影響力がなく、あったとしても会社の方針が優先されることを恐れていた。

 では、どうすれば人事部は会社の方針に従うだけのチームから、従業員とその悩みの解決を最優先するチームへとイメージを一新できるのか。

 何より重要なのは、従業員の誰もが自分の声を聞いてもらう資格があり、泣き寝入りを強いられないという権利を持つことである。従業員の経験から生まれた悩みの場合は、特にそれが重要だ。

 理想は、直属の上司や同僚に対し、安心して懸念を伝えられることである。しかし、過去30年にわたる筆者らの調査では、ほとんどの人は感情的な会話やリスクの高い会話になると、なかなか発言できないことがわかっている。このような時こそ人事部の出番であり、従業員をサポートする役割を果たすべきである。

 従業員が、人事部をコンプライアンス担当者としてではなく、コーチやメンター、仲介役ととらえるようになれば、自分の要望に一番理解を示してくれる存在として信頼するようになる。以下では、従業員が日々直面する人間関係の問題や文化的な懸念に対し、人事部のリーダーやスタッフが適切に対処するための3つのアプローチを紹介しよう。