競争上の優位性をつくり出すための戦略プランニング

 以下では、あなたが次の戦略プランニングの話し合いを真に「戦略的」なものにするためのヒントをいくつか挙げたい。

1. オペレーションのプランと、戦略のプランを区別する

 戦略プランはどうしても「戦略的」なものにならないと指摘されることがよくある。このような主張をする人たちは、オペレーションのプランと戦略のプランを一緒くたにし、そのうえで戦略のプランが戦略的でないと指摘しているため、公正さを欠く。オペレーションのプランが戦略的でないのは、当たり前のことだ。

 戦略プランの主眼は、競争上の優位性を高めること。変化と機会にうまく対応して、強みをつくり出すことを目指す。それに対し、オペレーションのプランの主眼は、効率性を高めること。人事部門、マーケティング部門、IT部門などの部署が立案するプログラムを通じて、戦略を実行に移すことを目指す。

 たとえば、自動車大手のトヨタで、全社レベルの戦略的ポジショニングの一環として、電気自動車を製品ラインアップに加えることを決定する。この意思決定は、工場の生産計画に基づいて実行に移される。この場合、前者のプランは戦略に関わるもの、後者のプランはオペレーションに関わるものといえる。

2. 戦略プランを固定的なものと考えない

 戦略プランがすべて原案通りに進むことはほとんどない。この点は、コロナ禍を経験した後では当然のことに感じられるかもしれない。コロナ禍では、世界のあらゆる組織が生き残りのために変容を余儀なくされた。

 しかし、戦略プランニングの有用性を否定する人たちは、戦略プランニングを行う人たちが世界を不変のものと思い込んでいると考えているようだ。そのような思い込みを持つ人たちは、戦略プランは変化し続ける世界に対処できず、失敗する運命にあると考えているらしい。

 この落とし穴に陥ってはならない。「戦略」という言葉は、軍隊を指揮する将軍を意味する「ストラテゴス」というギリシャ語が語源であることを思い出そう。軍の司令官は、敵との戦闘が始まった後、自軍の攻撃計画がすべて事前の計画通りに運ぶなどとは考えない。戦略プランを立案する人も、同様の考え方をすべきだ。

3. インサイトを引き出す

 3つ目を実践することが最も難しい。筆者は戦略プランニングの話し合いを終えた後、手応えを感じられないことがしばしばある。といっても、クライアントが満足していないのではない。クライアントは満足してくれている。筆者自身が「やり残したことがある」という思いを抱くのだ。

 そのような経験を重ねるうちにわかってきた。そうした落胆(と表現してよいとすれば)を感じるのは、インサイトを引き出せていないことが原因だと、筆者は考えるようになったのだ。具体的には、どのようなことなのか。

 インサイトとは、長年抱いてきた疑問が氷解したり、新しい視点で物事を見たりする感覚といえるだろう。戦略プランニングの過程でこうした「アハ体験」ができれば、あなたは競争相手の先を行くことができる(その発見に基づいて行動すれば、の話だが)。

 インサイトにはさまざまなパターンがある。たとえば、マーケット・セグメントを狙うことが最も利益を生むのか。または、どのような新製品が顧客のニーズに最も適合していて、ヒットの可能性が高いのか。あるいは、若い世代の働き手たちが高いモチベーションを抱くために、勤務先の会社にどのようなことを求めるのか。こうしたことを解き明かしてくれるのがインサイトだろう。

 そこで、次に戦略を話し合う際は、インサイトのひらめきが生まれるまで粘りに粘るべきだ。そうすれば、顧客にせよ、従業員にせよ、納入業者にせよ、重要なステークホルダーにとって何が大きな意味を持つのかが見えてくる。

 インサイトは、その他大勢との差別化を図る手立てになり、真の成功への道を拓く。インサイトに到達するには時間がかかるかもしれないが、その労力を払うに値する恩恵が得られるのだ。

 戦略は、(文章の形になっているかどうかは別にして)プランをつくることにより、強みを生み出すことを目指すものだ。別の言葉で表現すれば、戦略とは、主要なステークホルダーのために価値をつくり出し、それによって競争上の優位性を生み出すためのプランといえる。

 それは、文章の形になっていてもよいし、頭の中で考えるだけでもよい。いずれの場合も、戦略プランニングを行ったからといって、切れ味鋭い戦略の立案が妨げられるとは限らない。


"Strategic Planning Should Be a Strategic Exercise," HBR.org, October 04, 2022.