2. 顧客に選択権を与える
ホリデー向けのキャンペーンは、ブランドの存在を周知し、ブランドの個性を際立たせるうえで貴重な手段だ。しかし、悲しいことに、母の日や父の日のようなホリデーをきっかけに、つらい思い出が甦る人たちもいる。大切な人を亡くしたり、愛する人との関係がうまくいかなくなったりしたことを思い出さずにいられない人もいるのだ。
そこで、アクセサリー通販のパンドラに始まり、民主党全国委員会に至るまで、さまざまなブランドのマーケティングチームが、主だったホリデー向けに「オプトアウト」(拒否の意思表示をした人は、メッセージを届ける対象からはずされる)の選択肢を案内する試みを実験しはじめている。ハンドメイド作品のオンラインマーケットを運営するエッツィは、以下のようなメッセージを送った。
「母の日をつらく感じる方もいらっしゃるでしょう。母の日に関するメッセージを受け取りたくない方は、下記の方法で手続きを取ってください。あなたに気に入ってもらえそうな掘り出し物の商品の情報は、引き続きお知らせします。ただし、母の日のメッセージは添えません」
このようなオプトアウトの選択肢を示すことは、旧来型のホリデー関連のメッセージ以上に、顧客をつらい気持ちにさせるのでないかと考える人もいるかもしれない。しかし、ブランドとどのように接するかという選択肢を顧客に与えることは、共感を伴ったマーケティングの究極のあり方だと、筆者は固く信じている。
それに、マーケティングテクノロジーの進歩により、顧客をセグメントに分類し、特定のメッセージを送信するか、あるいは送信しないかを選択することは、以前より容易になっている。
スーツケースブランドのアウェイが母の日と父の日のメッセージに関してオプトアウトの選択肢を提供したのは、まだ1年だけだ。しかし、この取り組みは今後も続く見通しである。同社によると、オプトアウトを選択したメール購読者は4000人以上いるという。同社の気配りへの感謝の気持ちを伝えてきた人も、これとは別に250人いた。同様の措置を導入するブランドは、さらに増えそうだ。
3. 視覚情報でメッセージの温度感を調整する
マーケターが最も避けたいのは、共感を伴ったメッセージを発信したつもりなのに、受け手から薄っぺらいとか、嘘臭いと思われてしまうことだ。そのリスクを最小限に抑えるためには、視覚情報でメッセージの温度感を調整するとよい。そして、どのような視覚情報を打ち出すにせよ、これまで築いてきたブランドのイメージと矛盾のないものにすることが重要だ。
嘘臭さのない視覚的デザインのみごとな実践例としては、プロフェッショナルサービス企業、アーンスト・アンド・ヤングのケースを挙げることができる。打ち出したメッセージのテーマは比較的ありきたりなものに思えるかもしれないが、同社のウェブサイトを訪れれば、ダイバーシティ、自然、大きな志を表現した写真が目に飛び込んでくる。そのすべては、「よりよい社会の構築を目指す」という自社のメッセージと噛み合ったものといえる。
また、自分にこう問いかけよう──自社のデザインを再検討して、より親切で、より巧みなものにできないか。視力矯正関連の業界団体であるビジョン・カウンシルによると、米国の4人に3人は、なんらかの視力矯正を行っている。ごちゃごちゃせず、目に優しいデザインを採用すれば、共感とコラボレーションの精神を持った会社として自社を印象付けることができるだろう。
ここでも重要なのは、嘘がないことだ。どのような時も常に前向きでなくてはならないと主張する「有害なポジティブさ」を前面に押し出した視覚情報(無神経と受け取られてしまう)は避けよう。また、市販のグリーティングカードにありそうな陳腐な画像を用いることはぜったいに避けるべきだ。ブランドの視覚情報では、よいことも悪いこともすべて含めて、人々の多様な経験を表現すべきだ。
ほかの人の視点を理解する能力は、いつの時代でもマーケティングで最も重要な要素だった。その能力は、すべての人が悲嘆に飲み込まれているように感じられる時代には、特に重要な意味を持つ。そして、共感を伴ったマーケティングを適切に行うためには、それを人間的なものにすること、そして、嘘のないものにすることが不可欠だ。嘘を重ねても本物にはならない。真の共感を表現するために行動しよう。
"How to Get Empathetic Marketing Right," HBR.org, October 10, 2022.