ベンチャー投資家との距離を縮める

 2020年と2021年はベンチャーキャピタルの当たり年で、多くのベンチャー企業がスタートアップのバリュエーションを持続不可能なレベルにまで引き上げた。そのような投資家は、今後、景気が後退する中、どの投資先企業を優先的に支援するかを決定しなければならない。投資家は、投資先企業を成功に導くために、その後の資金調達ラウンドのための資金を確保する必要がある。

 2022年はダウンラウンドがより一般的になった。CEOとして自社のバリュエーションの低下を認めることは非常に難しい。ベンチャー投資家と頻繁にコミュニケーションを図り、長期的なポテンシャルを認めてもらうことが重要になる。

優秀な従業員を大切にする

 景気後退は、従業員にキャリア選択を再考させる。彼らが会社の存続に疑問を抱き始めれば、株式の上昇とは関係なく、現時点での収入、ボーナス、福利厚生がより充実している大手企業からの誘いに関心が向くだろう。

 これには、先手を打たなければならない。優秀な従業員と一緒に時間を過ごし、彼らの考え方を理解することだ。従業員は常に、自分の持分比率が直近の資金調達ラウンドに基づいていると考えているため、ダウンラウンドは彼らの不安を煽る。優秀な人材を失うことは、会社にとって大きなマイナスとなる。優秀な人材を確保し、新しい人材を採用するためにも、勢いを維持することが欠かせない。

 筆者はこれまで何度か、優秀な従業員には追加のストックオプションを付与し、彼らが引き抜きの電話に出ることすらないようにした。この方法は効果がある。優秀な人材を維持するために先手を打つことは、彼らが他の選択肢を検討し始めてから対抗策を講じるよりも、はるかに簡単だ。

独自の企業文化を強調し、その下で結束する

 筆者のCEOとしての経験では、企業文化は従業員の定着率を決定する最も重要な要素だ。従業員は自分の市場価値を知っており、十分な報酬を受けていて、幸せで、自分が貢献していると感じられれば、ほとんどは会社に留まる。文化に焦点を当て、企業の独自性とその価値を彼らに伝えるべきだ。

 筆者が以前参画していたエンタープライズセキュリティのスタートアップ、ブラック・ダック・ソフトウェア(2017年、シノプシスによって買収)では、公平性と学習の文化を構築した。同社では従業員全員が株主であり、会社を自分自身のものとして考えていた。学習と教育の機会を設け、従業員は会社の一員であることによって、学び、成長し続けることができると感じていたのである。

 逆境に立ち向かうため、チーム全体のモチベーションを高めるには、ユニークで明確に認識できる文化が欠かせない。経費削減と文化重視を両立させるというのは、直観的には相反すると思うかもしれない。しかし、自社独自の文化を育むイベントを行うために大きな投資は必要ないため、それは可能だ。従業員が集まるイベントの背後にある考え方こそが重要であり、それが従業員の士気に影響を与えるのだ。

 ブラック・ダックでは、ソフトウェア開発者向けにレゴで『スター・ウォーズ』の世界を構築するコンテストを開催した。このイベントは、開発者が皆の前で自身の創造性を発揮して楽しむことができることから、広く支持されたが、実際に費用もさほどかからなかった。

 企業文化はそれぞれ異なるが、いまこそ、それを強化すべき時だ。優れた文化があればこそ、人材が定着し、厳しい時期を乗り越えることができる。

* * *

 景気後退はビジネスサイクルの自然な過程であり、あらゆる規模の企業がそれを乗り切るか、衰退するかのどちらかをたどる。スタートアップが、利益を出すようになるまでは、成長と進化を外部資本に依存するため、各社独自の課題に直面する。それぞれの状況を乗り切り、さらに組織を強化するには、資金を節約し、顧客、投資家、従業員、そして企業文化に細心の注意を払わなければならない。


"5 Ways Startups Can Prepare for a Recession," HBR.org, November 10, 2022.