米国の雇用喪失は中国との貿易が原因なのか
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サマリー:中国との貿易は、米国の雇用を喪失させたという見方が米国政府内で一般的になっている。しかし、必ずしもそうとは言い切れない。筆者らがこの問題に関する複数の経済学者の研究論文を分析したところ、対中貿易による... もっと見る「チャイナショック」は米国製造業の雇用に一部影響を及ぼしたものの、全体的には雇用の減少につながっていないことがわかった。 閉じる

対中貿易がもたらす
米国経済への影響を分析する

 米中関係の悪化が進む中、貿易の果たす役割に、ますます厳しい目が向けられるようになっている。貿易はかつて、両国間の安定的な関係を支えていた。双方に経済的な利益をもたらすものだと見なされていたし、政治的で戦略的な問題における緊張を緩和する役目も果たしていた。

 しかし、この10年間で状況は劇的に変化した。いまや多くの方面で経済的な相互依存関係がマイナス要因になっているだけでなく、米国政府関係者の多くが、対中貿易にはメリットよりデメリットのほうがはるかに多いと考えるようになった。その懸念の中心にあるのが製造業の雇用、そして米国の雇用全般への悪影響だ。2000年以前に製造業が盛んだった中西部や南部などの地域では、特にその意識が強い。

 政府内では、この議論が解決したように見えるが、経済学者の間ではまだ議論が続いている。彼らはさまざまな方法論やデータを用いて、この問題を分析している。政府は、意図的かどうかは別として、議論されているうちの一方の意見に傾いている。

 政策提言者や経済界は、学者たちが現在も行っている広範な議論の内容を知っておくべきだろう。筆者らは最近、「チャイナショック」とそれが米国の雇用に及ぼす影響に関する文献を調べた。そして、この問題にそれぞれ異なる手法とデータを使ってアプローチしている、経済学者3組に焦点を当てた。

 複数の研究者によるデータを幅広く調べた結果、何がわかったか――。彼らが総じて、2010年以前は、中国からの輸入が米国の製造業の雇用に悪影響を与えたと考えていること。ただし、経済への最終的な影響や、製造業で失われた雇用とサービス業で増加した雇用の最終的なバランスに対しては、さまざまな見方があること。2010年以降は、対中貿易が雇用に大きな悪影響を与えたという証拠がないこと。つまり、2000年代初頭に報告された対中貿易による米国の製造業の雇用減少は、現在まで続いていないということだ。

 もう一つ、学者らの見方が一致していると思われる結果がある。それは、米国の中でも、教育水準が高く、経済的に多様な地域では、中国からの輸入の急増による影響が抑えられていたということだ。これは、ほかの国々におけるグローバリゼーションの影響に関するデータとも一致しており、教育水準の高さと再教育の機会があることで、労働者が国際貿易で利益を得る可能性は高まっていた。 

「チャイナショック」の歴史

 中国の製造大国化は、1978年に掲げられた「改革開放」に端を発する。この時、中国指導部は外資を受け入れ、計画経済からの脱却に踏み切った。1990年代に入って自由化政策が加速し、多くの外資系企業が中国に生産拠点を移し始めたことで、その影響は本格的に現れ始めた。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)教授のデイビッド・オーター、チューリッヒ大学教授のダビド・ドルン、ハーバード・ケネディスクール教授のゴードン・ハンソンの主張によれば、世界経済への「ショック」は、対外貿易が中国経済の重要な要素となった1992年に始まったが、米国の輸入に占める中国のシェアが安定した2010年頃には終わったという。