貿易がもたらした影響を
どのように評価し、対応するか

 以上をまとめると、2000年代初頭には、対中貿易の影響により、米国の一部地域で製造業の雇用が失われたが、そのトレンドはすでに終わっているというのが一致した見方だ。また、教育水準の高い地域の雇用は、好調だったという見方も一致している。チャイナショックが雇用全体に与えた影響についての見方は一致しないが、サービス業の雇用増につながったと考えられ、米国の雇用全体を押し上げた可能性も考えられる。ただし、その雇用は、沿岸部へシフトしている。

 米中関係を検討する政策立案者、また世界第2の経済大国との関係を見直そうとしている企業は、以上の結果を念頭に置かなければならない。米中が協力関係を断ち、企業がサプライチェーンを見直すのにはそれなりの理由があるのだろうが、貿易が米国に及ぼす経済的な悪影響は必ずしもその理由にならない。

 2000年代前半に中国からの輸入が増加したのは米国だけではなく、中国からの輸入に対して米国とは異なる対策を取った国がある点も注目に値する。米国同様、解雇規制が非常に緩いものの労働組合の影響力が強いデンマークでは、中国との輸入競争によって賃金は低下したが、雇用は大きく減少しなかったという。従業員の労働時間は減ったが、企業は雇用を維持した。このため、新たな教育を受けようとする労働者が増え、それが給与の上昇につながったという調査結果もある。またドイツは、その産業構造により、2000年代に中国との輸入競争をほぼ免れたようだ。

 本稿で取り上げた経済学者たちは、輸入が雇用に及ぼす影響をどのように測定するかについて必ずしも同意見ではなく、独自の主張を持っているものの、何が雇用喪失を解決する最善策かについてはほとんど議論していない。本稿で取り上げた学者の中で、貿易ショック後に関税を課すことの有効性について、公に議論した者はいない。そもそも、関税の発動によって労働者を保護できるのかどうかさえも定かではない。当然ながら、関税には、職を失ってしまった米国労働者を苦境から救う力はない。それだけでなく、関税が消費財の価格を引き上げ、低所得層を最も苦しめることは、経済学者も認めるところだ。

 ほとんどの学者は、政府による社会保障や補助金といった移転支出とともに、高等教育や労働者の再教育プログラムが、この問題に対処する最も効果的な方法だと考えている。

 たとえば、オーター、ドルン、ハンソンの3人は、貿易調整支援制度(国内産業従事者への失業手当や職業訓練支援など)のまだ実現されていない潜在的な有効性について論じている。同制度は予算不足によって、これまで一度も大きな成果をもたらしていない。年々縮小され、この夏、議会はとうとう再承認しなかった。職を失った原因が貿易か技術革新かにかかわらず、離職者を支援するための包括的な政策改善と財源確保を重要なアプローチとして検討すべきだろう。

 しかし、貿易政策や輸入競争をどのように管理するかという問題は、まず事実を認識することから始めなければならない。チャイナショックによって、2000年代の最初の10年間は米国の製造業で雇用喪失が生じたが、それ以後は生じていない。さらに、中国との貿易は、価格の低下など、米国国民に利益をもたらしたと考えられる側面もある。政策提案や立案に携わる人々は、最も効果的な改善策を決定する際に、この複雑なチャイナショックの記録を十分に考慮すべきだろう。

編集者注:本稿は、”The China Shock: Reevaluating the Debate”(CSIS発行)より引用し、一部改変したものです。


"Has Trade with China Really Cost the U.S. Jobs?" HBR.org, November 10, 2022.