TPSは学習のためのシステムである

 ほとんどの人がTPSについて見過ごしている最大のポイントは、それが学習のためのシステムであるということだ。学習と継続的改善に重きを置く姿勢は、トヨタのさまざまなレベルで見られる。

 工場の現場では、第一線で働く人たちの問題解決スキルが重んじられる。そうした人たちの問題解決を支援する役割を担うのが、高い地位に就き、高度な専門知識と、指導能力を持っているチームリーダーやグループリーダーたちだ。

 トヨタの工場の組み立てラインにいくつもの職階が存在していることを非効率だと考える人も多い。しかし、実際はその正反対だ。そのような仕組みにより素早い問題解決が可能になり、改善が後押しされて、タイトなジャスト・イン・タイム方式を効率的に実践できている。このような人員配置は、十分に割に合うのだ。

 学習は、サプライヤーへの支援の過程でも行われる。トヨタはサプライヤーの問題解決を支援するために労力を費やしながら、自社の生産プロセスを学習していく。その結果として、次に問題が持ち上がった時には、問題解決を支援する能力が高まっているのだ。また、新製品を市場に投入する前にサプライヤーと2~3年協働することが多いので、立ち上げ時に直面する問題の解決を支援する体制も整っている。

 ボニーニはこのように説明している。「私たちはデザインの面でサプライヤーを助けることもできます。デザインを修正したり、最適化したりすることで、部品を製造しやすくする手助けを行っているのです。もし市場投入の段階で問題が発生したり、品質の問題が起こったり、エンジニアリングに関わる変更が必要になったりした場合も、私たちはサプライヤーと信頼関係を築いていて、サプライヤーの業務プロセスも理解できています。カギを握るのはコラボレーションなのです」

 その恩恵は、サプライヤーの業務プロセスが最初の段階でより強靭になることだけではない。こうした過程を通じてトヨタが学習することにより、将来にまた問題が発生した時に、問題をより深く理解できるようになるのだ。その結果、問題解決のスピードが高まり、必要であれば代替案をより迅速に生み出すことが可能になる。

TPSは組織文化である

 TPSは、単に工場のオペレーションの仕組みというだけに留まらず、一つの組織文化でもある。このシステムの核を成すのは、人々にモチベーションを持たせ、人材を育成することにより、問題を早期に発見して解決し、継続的改善を重んじる文化を育むことを目指すという発想だ。こうした組織文化は、トヨタの社内だけでなく、サプライヤーにも共有されている。

 サプライヤーの人々によれば、トヨタとの関係は、ほかの取引先との関係と大きく異なるという。その違いは、問題が発生した時に物を言う。それが強みになっているために、トヨタは大半の自動車メーカーよりもうまく、この数年間のサプライチェーンの混乱を乗り切り、しかも学習と進化を続けられているのだ。

 いずれの文化もそうだが、トヨタの組織文化も、独自の価値観の上に形づくられている。したがって、トヨタで採用されているオペレーションのシステムを模倣して恩恵に浴したいと考える企業は、リーン生産方式やジャスト・イン・タイム方式などのツールを表面的にコピーするだけでは十分でない。まず、トヨタの価値観と信条を学ぶことから出発する必要がある。

 TPSの恩恵が明白であるにもかかわらず、ほかの会社が同様のやり方を採用することが極めて難しい理由は、この点にあるのだ。


"What Really Makes Toyota's Production System Resilient," HBR.org, November 15, 2022.