宇宙関連企業によるプラットフォームの展開

 ここではスペースXという1社のみに焦点を当てるが、競合他社も同様の経験をしている。同社でこのアイデアが生まれたのは、当時は億万長者になりたてで、火星に興味があったイーロン・マスクが、次のことに気づいた時である。

 NASAは30年以上にわたり毎年数十億ドルを費やしているにもかかわらず、人間の火星着陸にまったく近づいていない。宇宙飛行士の月面再着陸さえ、実現できていない──。

 彼はNASAが個々の打ち上げを1回限りのイベントとして扱ってきたことに問題があると推測した。少しずつ学んできたとはいえ、基本的には次の打ち上げを白紙の状態から始めていた。部品を再利用せず、再利用の可能性さえも検討しなかった。

「何百万ドルもするロケット段を毎回の打ち上げ後に捨てるのは、ボーイング747を毎回のフライト後に廃棄するのと同じくらい理に適っていない」とマスクは述べている。

 再利用性は、この業界に商業活動を生み出すための重要な手段になるだろうとマスクは考えていた。「宇宙飛行の需要が少ない理由は、とんでもなく高額だからであり(中略)、問題はロケットが再利用できないこと」であった。

 2021年にスペースXは、自社の再利用可能なロケットで100回目の着陸を成功させた。再利用性を有するということは「止まらない」ということである。スペースXのシステムとロケットは繰り返しアップグレードが行われ、それにより同社が顧客に提供する一連の機能全体が拡張してきた。まさにアップルのOSシステムのアップグレードと同じような形である。

 ロケット製造におけるプラットフォーム型のアプローチは、好循環を生む。モジュール部品で構成されるロケットシステムは、アップグレードと再利用がしやすいのだ。それが量の──この場合は打ち上げ回数の──増加につながる。

 プラットフォーム(ロケット)の構成要素のアップグレードと組み換えを行うことで、規模拡張を続けながらプラットフォームを別の目的にも利用できる。目的が多様化することによって、プラットフォームはより多くの利用者により多くの価値をもたらす。すると規模がさらに拡大する環境が生まれる。

 スペースXの将来がまだ不透明だった2009年、同社は1回のみ商業打ち上げを行い、ラザクサット(マレーシアの地球観測衛星、重量180キロ)を衛星軌道に投入した。2021年、スペースXは年間31回の打ち上げという記録を樹立し、最大積載量は1万5635キログラムに及んだ。

 現在は、毎回の打ち上げで複数の役割を遂行する。2019年6月には同社の大型ロケットであるファルコンヘビーの1機が、24種類の人工衛星を3種類の軌道に運んだ。積み荷の一つは星間飛行のために太陽エネルギーを取り込むソーラーセイルの実験機で、資金は一般の人々から提供された。また、NASAが深宇宙(国際電気通信連合の定義では地球の表面から200万キロメートルの距離から始まる宇宙)で使うために設計した小型原子時計や、米国防総省の出資による宇宙放射線の観測衛星、152人の遺灰を収めた容器なども積み込まれた。

 2022年のスペースXの打ち上げによる収益は、40回を超える打ち上げで約20億ドルと見込まれる。各打ち上げのコストは、NASAによる通常の打ち上げの10分の1に留まる。かつてなく低いコストと素早い市場投入により、打ち上げの頻度は増加に向かっている。NASAでライフサイクル・アナリストを32年間務めるエドガー・ザパタによると、スペースXならば年間200回以上の打ち上げを実現できる可能性があるという。

 NASAはピーク時の1964年、今日のスペースXと同じくらいの頻度で宇宙への打ち上げを行っていた。当時のテクノロジーを踏まえれば、驚くべきことである。だがその偉業は、2020年現在の価格に換算して400億ドルという持続不可能なコストと引き換えに実現した。1970年までに予算はほぼ半減し、1987年にはNASAの打ち上げの頻度は年にたった4回にまで急減した。好循環が生まれていなかったのは明らかだ。

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 スペースXのような企業は宇宙の商業利用への道を切り拓いたが、彼らのプラットフォームモデルは、人類がほかの問題を解決するための方法も指し示している。気候が危機に瀕し、政情不安が高まる状況下で、私たちが問題にいかにうまく対応するかは生存と絶滅の分かれ目となる可能性がある。

 もし私たちが生き残るなら、その理由はほぼ間違いなく、解決策が従来型の方法で計画されたメガプロジェクトではなく、拡張可能なプラットフォームだからであろう。


"A Platform Approach to Space Exploration," HBR.org., November 22, 2022.