
戦略を機能させるにはインサイトが必要である
ライバルに対して競争優位を獲得することは、経営戦略のエッセンスだ。企業であろうが、政府機関や非営利団体であろうが、すべての組織には競争相手がいる。それは顧客をめぐる競争かもしれないし、資金獲得をめぐる競争かもしれない。あるいはすべての組織が人材確保のために競争している。
だが、戦略とは、主要ステークホルダーにとって最も関連性の高い戦略的な要因に基づき、組織を方向付けた時初めて機能するものだ。戦略を機能させるには、インサイトと呼ばれるものが必要になる。インサイトとは、ステークホルダーが真に求めていることについて、これまで誰も抱いたことのない気付きのことである。それは誰かが何かを説明してくれた時に「なるほど」と初めて納得するような感覚だ。「ある条件を見て、正しい推論を導き出た時」と言ってもよい。頭の中で、「ピカッとひらめいた」感覚とも言える。インサイトが得られた瞬間については、多くの比喩が存在する。
では、インサイトを得るにはどのような環境が必要なのか。本稿では、競争優位を獲得するために必要なインサイトを生み出すための4つのテクニックを紹介しよう。
内省
マサチューセッツ工科大学(MIT)の象徴であるグレートドームの前庭には、チャールズ・ダーウィンら偉大な科学者の名前が刻まれた石碑がある。進化と適応に関するダーウィンのインサイトは、地球上の生物についての理解を一変したものであり、彼こそ史上最高の科学者だと言う人もいる。ダーウィンはよく散歩をした(通常は自宅近くの「サンドウォーク」と呼ばれる、長方形の小道を散歩した)。そしてその散歩中に、さまざまなコンセプトと現象の関連性をあれこれ考えていた。
多角化した上場企業のCEOであるトムの場合、インサイトは散歩中ではなく、ガーデニング中に浮かんでくる。「会社では、ミーティングがあったり、あれこれ問題が起きたり、予定外の出来事があったりと、スケジュールに余裕がありません。そのため戦略について考える時間はないのです。戦略について考えるのは、空き時間にやるガーデニングの最中です。緊張が解けて、頭の中が自由で、リラックスモードになっている時です」。
ダーウィンの例は、内省によってインサイトを得るには時間がかかることを示している。一方、トムの例は、リラックスしてクリエイティブな頭になる必要があることを示している。これらのような状態であれば「もしもこうしたらどうなるだろうか」という疑問を自分に投げかけることができるのだ。1994年にアマゾン・ドットコムを立ち上げる前のジェフ・ベゾスも、「もし実店舗がまったく必要ないとしたら、どうなるだろう」と考えた時、同じような状態だったのではないか。
他人の視点を借りる
内省は素晴らしい出発点だが、自分の視点に制限されるという問題がある。あなたの組織のステークホルダーは、あなたのパフォーマンスをまったく異なるレンズを通して見ている。それを活用すれば、インサイトを得る絶好のチャンスになる。たとえば、顧客のニーズや、製品の使い方、保守整備の要件について会話をすると、最も効果的にインサイトを得られるだろう。
ゴードンは果物協同組合のCEOだ。この組合は、メンバーである生産者からオレンジを預かり、格付けし、包装して小売店に販売する。ゴードンは、組合と生産者の関係の根本的な部分について「合点がいった」瞬間のことを話してくれた。「こちらから出向いて、何人かの生産者の話を聞くまでは、果物の代金を迅速に支払うことがいかに重要か我々は分かっていませんでした。中には非常に厳しい予算で経営している生産者もいるのです」
事務局のスタッフは農家ではなく、借入金を長期にわたり返済していくことに慣れていたため、このインサイトを得ることがなかった。生産者のキャッシュフローを改善することは、組合とメンバーの関係を強化しただけでなく、新しいメンバーを獲得する上でもゴードンの組合に優位を与えた。