ステークホルダーの行動を観察する
顧客をはじめとするステークホルダーの話を聞くことは、「それは気がつかなかった」というインサイトを得る極めて有効な方法だが、欠点がないわけではない。
というのも、顧客は過去の行動を思い出すのが苦手なことがある。たとえば、調査で、あるブランドの商品を買ったと回答した人が、実のところ買っていなかった場合がある。彼らの記憶が信頼できないのは、宣伝広告のために、こうした調査の時、人気ブランドが真っ先に思い浮かぶようになっているからである。
いわゆる「社会的に望ましい回答」を意識して、従業員が偽りの回答をする場合もある。具体的には、社会的に承認された行動に則るような意見を述べる時がこれに当たる。たとえば従業員に、モチベーションになる要因を順位付けしてもらうと、通常、給料は5位前後になる。だが、実際の従業員の行動を調査すると、給料ははるかに大きなモチベーション要因となる。なぜか。それは直接話を聞かれた時、金にうるさい人間だと思われたくないという意識が働くからだ。
この問題は、個人が一連の戦略的要因をランク付けするよう求められた時、最も強く表れる。グループでランク付けするような時には、同じようなことが起きにくい。したがって、状況によっては、ステークホルダーの意見を聞くよりも、その実際の行動から戦略的インサイトを得たほうがよいこともある。
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組織は、同業者の戦略に便乗する傾向がある。これは企業部門に限らず、政府機関や非営利団体でも起きることだ。業界で何らかのマインドセットが生まれると、それと一致するプロセスと戦略を定めることが一般的になる。このような状況に陥った企業は、純粋なインサイトを得られなくなってしまう。
この苦境を脱するために、企業はほかの業界に目を向けることで戦略のインサイトを得ようとしてきた。筆者が知る例としては、国際的な化粧品ブランドの例である。その企業は、男性用美容商品を発売した時、エナジードリンクメーカーのレッドブルが、どのように若い男性顧客を獲得しているかを研究したのだ。ほかにも、オフィスや工場にコーヒーや紅茶、スナック菓子を配達する社会的企業は、トヨタ自動車の顧客サービスを研究して、注文の正確さとスピードを向上させるためのヒントを得た。
大手銀行が自動化技術を使って、アプリによる顧客体験をどのように向上させているかを研究した生命保険会社もある。このプロジェクトの責任者だったフェリックスは、「真のブレークスルーを成し遂げるには、業界の戦略立案方法から脱却する必要がありました」と語っている。
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インサイトを得ることは、戦略的な成功のために極めて重要だ。なぜか。それはインサイトが競争優位をもたらし、競争優位がライバルを上回る業績などの結果をもたらすからだ。インサイトの概念を、顧客やクライアントのニーズに限定してはならない。本稿で紹介したように、インサイトの範囲を主要なステークホルダーとの関係に拡大して検討すべきだ。
"4 Techniques for Developing Strategy Insights," HBR.org, November 23, 2022.