
テクノロジーの進化は止められない
2022年11月末にオープンAIは、ストーリーの創作やコードの生成ができる新型AIツール「チャットGPT」(ChatGPT)をリリースした。チャットGPTには、コピーライティング、カスタマーサービスへの問い合わせへの回答、記事の執筆、法的文書の作成といった、これまで人間が担ってきた役割の一部を代替する可能性がある。AIが発展し続けるにつれて、現在の職はますます自動化によって脅かされることになる。
一方で人工知能(AI)は好機も生み、新しい職と、従来とは異なる種類の組織を創出するだろう。問題は、AIがより多くの認知的作業を担うにふさわしい能力を持つのか否かではなく、私たちがいかに適応するかである。
ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンは、人間の判断力に関する世界的第一人者であり、生涯を通してその欠点を実証してきた。たしかにAIには欠陥があるかもしれないが、人間の論理的思考にも大きな欠陥がある。したがって「AIと人間が競争すれば、間違いなくAIが勝つことになる。AIを利用するために人間がどう適応するかは非常に興味深い問題だ」と、カーネマンは2021年に述べている。
適応へのカギは、労働人口がAIの利用に参加できるよう、経済システムを再設計する方法を見出すことである。そのためには、作業を人と機械の間で移行するだけに留まらないシステムソリューションが必要となる。筆者らが新著Power and Prediction: The Disruptive Economics of Artificial Intelligence(未訳)で述べているように、システムソリューションはワークフローに変化をもたらし、古い手段を破壊して新しい手段を生み出す。
地図を考えてみよう。私たちは過去10年ほどの間に、ある場所から別の場所に行く経路を知るためにAIを使うようになった。通行止め、現在の渋滞状況、通行料金や右左折に関するドライバーの傾向をAIは考慮するが、運転という行為自体は根本的に変わらない。
このような自動指示を早期に活用したのはタクシー業界だ。タクシー運転手はより効率的なルートの探索にAIツールを使うことができ、それを携帯電話と組み合わせることで、より効率的な配車が可能になった。タクシー業界はAIによる運転指示と配車のデジタル化を通じてポイントソリューションを生み出した。すなわち従来と同じことを、同じシステム(既存のタクシー業界)によって、より巧みに行うものである。