
仕事に過度な思い入れを持っていないか
筆者のクライアントであるルイスは、自分の仕事を深く愛していた。業務は面白かったし、同僚と関わることも楽しかった。それに、給料もよかった。唯一の問題は、仕事に対して強い感情を抱きすぎているせいで、さまざまな判断の質が低下し、自身のウェルビーイングにも悪影響がおよび始めていたことだった。
ある金曜日の夕方、終業時間の間際に上司が緊急の会議を招集したことがあった。あるプロジェクトが計画より遅れていることを問題にしたのだ。プロジェクトが遅れている原因の多くは、ルイスがどうにかできることの範囲外だったが、後れを取り戻す責任は自分の肩にのしかかっていると、ルイスは感じた。そこで、週末を返上して働き、どうにか挽回した。しかし、それと引き換えに、ルイスは睡眠時間と家族との時間を犠牲にすることになった。
仕事で高い成果を挙げている人の中には、ルイスの経験を他人事ではないと感じた人も多いだろう。仕事に対して強い思い入れを抱くことは、言ってみれば諸刃の剣だ。たしかに、強いやる気と情熱は、高いパフォーマンスを発揮する原動力になる。自分のパフォーマンスに注意することで、仕事への満足度とやりがいが高まる。しかし、それが度を超すと、エネルギーを大幅に浪費し、重い負担がのしかかるようになる場合がある。
リモートワークが一般的になり、仕事と私生活の境界線をはっきり引くことは難しくなる一方だ。そのような状況では、キャリアがアイデンティティの極めて重要な要素になっている人がしばしばいることは意外ではない。勤務先の会社を成功させるために献身的に努力することは基本的に悪いことではないが、仕事に感情と行動が支配されるとなれば、さまざまな問題が生じる。
では、自分が仕事に対して強い感情的思い入れを持ちすぎているか否かについて、どのようにすれば確認することができるのか。以下のような兆候に注意を払おう。これらの兆候が現れた時は、少し仕事と距離を取ったほうがよい。
批判に傷つく
否定的なフィードバックを受けた後は、怒りや不安を感じたり、気持ちが沈んだりするかもしれない。上司の厳しい評価が原因で長い間、脇に追いやられていると感じたり、周囲の意見を気にしすぎるあまり、人と関わることをいっさいやめてしまったりする人もいる。
誰かに仕事ぶりを批判されると、みずからの最悪の不安が裏付けられたように感じるかもしれない。その不安とは、自分には十分な能力や資質がないのではないか、という不安である。
そのような結論にすぐに飛び付くのではなく、自分の仕事に対する批判と、自分という人間に対する批判を区別すべきだ。否定的な評価の内容を客観的に理解するためには、次のエクササイズを実行するとよい。
まず、1枚の白紙を用意して、その紙面を4つのスペースに区切る。最初のスペースには、相手から言われたことをそのまま正確に記す。次のスペースには、事実誤認や、見落としている点など、その指摘が間違っていると思う点をリストアップして記す。
3つ目のスペースには、その指摘に有益な要素がないかと考えて、それを記す。たとえば、自分の業務フローやスキルを改善するのに役立つインサイトが含まれていないだろうか。そして最後に、4つ目のスペースには、今後どのような行動を取るつもりかという決意を書き込む。物事をはっきりさせるための話し合いの約束を取り付けたり、相手の認識を訂正したり、あるいはこのまま放っておいて目の前の業務に集中したり、といったことだ。