自宅にいても仕事のことが気になる
仕事への感情的な思い入れが強すぎると、過度に仕事にのめり込むことになりかねない。自己評価を高めるために働きすぎてしまう可能性があるのだ。このような状態にある人は時として、より多くの成果を挙げることを通じて、自分の価値を証明し、より多くの価値を生み出そうとする。そうなると、本当は休息が必要な時に、休息を取れなくなる危険がある。1日の勤務時間が終わっても、言わばスイッチを「オフ」にするのが難しくなることもありうる。仕事が私生活の時間を侵食し、さらには頭の中にも入り込み始めるのだ。
この状態に至ると、常にスイッチが「オン」であり続けることは、仕事への献身を実証するというより、成功の土台を蝕むようになる。高いパフォーマンスを残したごほうびとして初めて、リラックスすることが許されると考えるのではなく、マインドセットを変更し、リラックスすることが高いパフォーマンスの前提条件だと考えるようにすべきだ。
また、仕事と自分を切り離すための慣行を採用するとよいだろう。たとえば、以下のようなことを実践してみてはどうだろう。
・仕事を切り上げる時間を忘れないように、アラームをセットする。
・勤務時間が終わった後は、デジタル機器の電源を完全に切り、仕事のアカウントにログインしたいという誘惑を断ち切る。
・翌日の「やるべきことリスト」をつくるなど、仕事の時間からプライベートの時間に移行するための「儀式」を設ける。
まわりの人を喜ばせたいと感じる
まわりの人を喜ばせたいという気持ちを抱くことは、自分のニーズより、ほかの人のニーズを優先させることを意味する。
本稿の冒頭で紹介したルイスのように、問題を解決してピンチから救うヒーローになるべきだという強い責任感を抱いたりする。また、このような人物は、他の人たちの感情を吸収し、波風を立てないために自分の意見を変えたり、弱いとか能力が不足しているとかと思われたくないと考え、助けを求めることを避けたりする場合もある。
そうした人たちは、感じの良い人物でいることにより、自分が寛大で協調性のある人間だと感じているだろう。しかし、自分のメンタルヘルスや人間関係を損なうようでは、そのようなことは言っていられない。
他の人たちの力になるために無理をして頑張り過ぎることは健全でない。それに、そのような行動を取っていると、一緒に働く人たちが主体的に、責任感を持って行動することを後押しできない。
自分を変えるための最初の一歩は、自分を理解することだ。まずは、仕事のプロジェクトや人間関係で、公正とは言いがたいほど多くの業務や責任を引き受けてしまうのは、どのような時か、注意を払う。特に、自分が強い怒りを感じる領域はどこかに目を向ける。自分の業務上の負担が重すぎるとか、正当に評価されていないとかと感じるのは、どの領域だろうか。怒りは、自分自身のニーズを抑え込んでいることを示唆する強力な感情的シグナルだ。それを手がかりにすれば、どの点を改めるべきかが見えやすくなる。
仕事の肩書きが自分のアイデンティティになっている
職業以外に自己を持っていないとすれば、その状態は危うい。
そのような人物は常に、職を失うことへの恐怖を感じている可能性がある。自分の人間としての価値がすべて仕事に依存しているからだ。人としての多面性に欠けていて、アイデンティティが一つの要素だけに結び付いている人は、感情が動揺しやすく、ストレスに対するレジリエンスが弱い。
仕事と心理的な距離を取ることは、ウェルビーイングを向上させるうえで大きな効果が期待できる。といっても、「静かな退職」(クワイエット・クイッティング)を実行するなど、エンゲージメントを低下させろというわけではない。重要なのは、仕事と自己を区別することだ。たとえば、「私が大切に思っている人たちにとって、私はリーダーやマネジャーという以外に、どのような人物に思われているのか」と自分に問いかければよい。
また、仕事以外で楽しく感じられることを行い、仕事以外で自分の能力に自信を持てることをつくろう。筆者のクライアントの一人は、深刻な燃え尽き状態を経験したのち、創造性を発揮する機会として、フラワーアレンジメントを始めた。別のクライアントは宇宙物理学の勉強を開始し、また別のクライアントは地域の動物保護センターでボランティアを始めた。こうした活動はすべて、自我を確立し、仕事が思うように進んでいないときでも、頼ることのできるアイデンティティをつくり出す効果があった。
忘れてはならない。仕事は、あくまでもあなたが実行する活動の一つにすぎない。それは、あなたという人間のすべてではないのだ。
"Are You Too Emotionally Invested in Your Job?" HBR.org, December 08, 2022.