数十年にわたる組織心理学の学術研究が示すように、個人の職務遂行能力を定量化する最も一般的なアプローチは、従業員(自己評価)またはその管理者(上司の評価)による主観的な評価だ。自己評価と上司の評価の相関係数は0.22で、両者の重なりはわずか4%である。したがって、従業員が自己評価した仕事の成果の96%は、上司の評価とは「関係がない」のだ。当然ながら、従業員は上司による評価を知って驚くことが少なくない。そして上司は、みずからに対する評価を知った従業員の気持ちがわかると、それに報いようとする。
こうした緊張状態の多くは、組織がさまざまな役割やレベルにおいて、パフォーマンスの定量的な尺度を定義しようとしないことから生じる。そのような定義がなければ、グループや個人のパフォーマンス全体の一部しか把握できないだろう。合意された定量的なKPI(重要業績評価指標)がなければ、パフォーマンスの評価はさらに政治的で感情的になり、偏ったものになりやすい。
一般的に従業員による自己評価は甘すぎるものだが、彼らの真の貢献価値や成果を測定するうえで、上司の評価のほうが正確で優れているという証拠はあまりない。それでも、さまざまな上司や同僚といった情報源の評価を集約することによって、評価の信頼性は大きく向上する。
もちろん、実際のパフォーマンスとは関係のない要素を通じて、他者からの自分の評価を高めることは可能であり、望ましいことでもある。たとえば、あなたが上司なら、従業員と良好な関係を築くこと、従業員に自由と柔軟性を与えること、従業員が職場で楽しく過ごせるようにすることは、実際にチームのパフォーマンス向上に直結しないとしても、あなたに対する360度評価にプラスになるかもしれない。従業員エンゲージメントも同様で、チームのパフォーマンスとの相関係数は0.3(重なりは9%)にすぎない。
トップから現場まで
KPIの階層を定義する
個人のパフォーマンスの指標が決まると、次の課題は、財務KPI、収益、利益、離職率、成長、イノベーションなど、組織のトップレベルに関連するKPIを構築することだ。
そのためには、定量的および定性的なKPIの階層を定義する必要がある。KPIを定義するプロセスでは、CEOから現場の従業員まで組織のほぼ全員が、自分の役割、チーム、部門にとって重要な指標は何か、またそれに関連するグループで重要と定義された成果とどう関係するかについて、理解しなければならない。
これらの定義は、(少なくとも定量的なKPIは)分析チームによる検証が必要になる。そのうえで、これらの指標を継続的に測定し、組織全体にフィードバックするためのツールを導入することができる。このようなKPIの予測分析能力は、ビジネスの状況によって必然的に変化するため、定義のプロセスを繰り返さなければならない。
個人のデータがアプリや電話、ウェアラブル機器によって広範囲で取引され、商品化される世界であっても、自分の職場のデータが事細かく分析されることを人々はけっして歓迎しない。監視アルゴリズムには、ジョージ・オーウェルの『1984』の世界観のように全体主義的なところがある。どのようなデータが収集され、分析されているかについて、フィードバックがなければ、信頼が損なわれる。
たとえば、「あなたは会議に参加しすぎている」という定型的な自動返信メールが送られてきたら、その技術を矮小化し、押しつけがましいという疑念を新たに持つかもしれない。その結果、従業員はそうしたフィードバックの根本にある分析結果を不気味だ、あるいはくだらないと見なす可能性が高くなる。だからこそ、KPIの定義プロセスは、透明性があり、包括的でなければならないのだ。
経営陣は測定基準を独断で設計すべきではなく、測定基準が予測可能だから倫理的だと考えてはならない。独立したメンバーで構成される倫理委員会を設立して、組織内のステークホルダーと話し合いながら、ある指標が絶対的に「正しい」のではなく最善の推測だと認めることが、より公平で、より迅速で、データ主導の組織を構築するために必要だ。
仕事がますます複雑になるなか、組織の成功には、効果的で大規模なコラボレーションが重要になってきている。大規模なプロジェクトの成否は、一個人のパフォーマンスというより、人々がどのように協力するかにかかっている。
組織の成功は、基本的に個人の行為によるものではない。個人レベルのパフォーマンスの評価と報酬は、最終的に給与や昇進を受けるのは個人なのだから必要ではある。しかし、現代の組織で本当に重要なこと、すなわち他者と仕事をして、効果的に協力し、他者をよりよくすることと個人の評価は、科学的に相容れないのだ。
"Toward Fairer Data-Driven Performance Management," HBR.org, December 14, 2022.