正しい質問をする
極めて偏向的な世界では、対立を招く問題について、すべてのステークホルダーを満足させるような立場を見出すことは、どの企業においても難しい。また、すべての問題について発言しながら、ビジネスを継続するのは非現実的といえる。新たな問題に対して、積極的あるいは受動的に立場を示すかどうかの決断は、いくつかの重要な要素に基づいていなければならない。取締役は、CEOが以下のことを考慮するようにすべきだ。
・整合性:そのテーマは、会社のパーパス、ビジョン、戦略とどれだけ密接に関連しているか。
・ステークホルダー:その問題は、ステークホルダーに広く影響を与えるか、それとも特定の人にだけか。そして、一部のステークホルダーにとって、意見の対立を招くものか。
・実績:組織には、その問題について信頼できる発言をしたり、関与したりした歴史があるか。沈黙を続けてきた場合、これまでにどのような反応があったか。
・競合:その問題は、競合他社と差別化するチャンスになるか。
ステークホルダーを調査する
ステークホルダーにとってどの課題が最も重要か、どの問題が会社に関連していると考えているかなど、彼らの意見を理解するにはさまざまな方法がある。特に、ここ数年で企業の評判を悪化させた課題の多くは、社内における感情が引き金になっており、従業員調査が不可欠である。フロリダ州の反LGBTQ法案に対し、会社が沈黙していることに従業員が抗議したウォルト・ディズニーの事例もその一つだ。
こうした調査や分析により、多くの情報に基づいた意思決定を行うための予備知識を得ることができる。
目的と戦術を検討する
立場を表明することによって、達成したい目標を明確にすることも重要だ。それには、啓蒙、経済的影響力の行使、政治的方策の形成などが含まれる可能性がある。同様に、戦術的なアプローチも複数ある。従業員と念入りにコミュニケーションを行う、メディアに声明を出す、プレスリリースを出す、会社の方針を見直すなどの方法があり、それぞれステークホルダーの反応は異なり、さまざまな結果をもたらす可能性がある。
多様なアドバイザリーチームを活用する
こうした取り組みを適切に行っている企業は、顧問弁護士、最高人事責任者(CHRO)、部門リーダー、コミュニティリレーションズ担当者など、多様なステークホルダーを集め、上記の問いを定期的に評価し、問題の解決策を策定している。
取締役は、「外部」の視点を提供し、見落とされる可能性のある点を特定し、一部のステークホルダーがどのように反応し、その過程で会社がどのように世間にさらされるかについて、予期せぬ結果を考慮するよう経営陣に働きかけることができる。
矛盾を特定する
企業が立場を表明し、コミットメントを行い、構想を立ち上げる際には、その活動と他の活動が矛盾していないかどうかを把握することが非常に重要だ。たとえば、LGBTQ+の権利を支持する強い姿勢を示している企業が、反LGBTQを掲げている政治候補者に寄付をしていた場合、批判を受ける可能性がある。
同様に、社外向けの声明は、まず既存の企業ポリシーに照らして検討しなければならない。完全に一貫していることが理想だが、最低限、取締役と幹部は、組織が批判を受けやすい点を認識し、世間の厳しい目に対応できるよう準備をする必要がある。
取締役会の議題
ステークホルダーの期待の変化や、不適切な意思決定による企業の評判や財務への影響を考えれば、取締役会は、社会的問題に取り組むための会社の能力と戦略に重点を置くべきだ。まず、関連性を判断するための枠組みを求め、整合性、機会、リスクについて賢明な質問をする。そして、ステークホルダー、特に従業員からフィードバックを集め、目的と戦術を検討する。そのうえで、多様なアドバイザリーチームと協議し、批判を回避する、あるいは批判に備えるため、矛盾をはらむ可能性がある領域を探さなければならない。
人々は、企業が社会の大きな問題の解決に率先して取り組むことを望んでいる。いまこそ取締役会は、そうした問題を議題にすべきである。
"How Boards Can Guide Company Strategy on Social Issues," HBR.org, December 15, 2022.