2. 既存商品の新たな顧客を発見する

 ヒートテスティングによって、既存商品の成長の機会を見つけることもできる。従来の商品を新たなオーディエンスのためにリポジショニングすることには、リスクが伴う。新しいメッセージングやイメージは、既存の顧客層を遠ざけることもあるからだ。

 新しいポジショニングを小規模な形で新しいオーディエンスにテストすると、PMFを見極めることができる。ブランドにとっては大きな投資をせずに、さらなる収入源への道を開く機会になるだろう。新しいメッセージングについても、やはり小規模な形で成功しているポジションをコアなオーディエンスにしてテストをすると、そこに潜むリスクを正確に特定することができる。

3. オファーに対するターゲットオーディエンスの反応を知る

 ヒートテスティングの目標は、ヒート(熱)、つまり商品と顧客の相性と、その相性を生み出すマーケティング要素を発見することである。ヒートテスティングはA/Bテストではない。A/Bテストは、すでにトラフィックが存在する場合に、無作為抽出になるよう、ユーザーがさまざまなタイプの既存のウェブページに自動的に導かれる環境で行われる。

 ヒートテスティングによる戦略はこれとは異なる。商品かオーディエンス、またはその両方が新しいため、多くの場合、ブランドが潜在顧客を惹き付ける既存のメカニズムを持たない場所で、ランディングページへのトラフィックを創出しなければならない。

 新商品のコンセプトのためのトラフィックの創出は手間のかかることではなく、学習の機会である。ミレニアル世代の「スピリッツ・フリー」のオーディエンスは、「自分好みに調合できること」と「サステナビリティ」とでは、どちらのポジションによく反応するだろうか。どのポジショニング、クリエイティブのスタイル、オーディエンスの組み合わせが、各コンセプトのメール登録を生み出すのに最も効果的だろうか。ランディングページに到着した人の何%が、さらに詳しく知ろうとしてメール登録するだろうか。メール登録1件あたりのコストはいくらか。顧客獲得コストについて、何が推測できるか。広告プラットフォームによって行動の違いはあるか。こうした重要かつ大きな疑問の答えを出すことによって、高い費用をかけて新たなマーケティングに取り組むリスクを回避できる。

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 ヒートテスティングが画期的である理由は、現実の世界で実施される点にある。広告への1回のクリックも、1回の保存や「いいね」もデータになる。ランディングページの1回の閲覧もデータになるのだ。キャンペーンの各変数の成績を比較すれば、新商品をどうポジショニングすべきかについて多くを学べる。何より、こうした知識は統計的に有効なのだ。

 筆者らのイノベーションへのアプローチは、 The Lean Startup(邦訳『リーン・スタートアップ』日経BP、2012年)の著者であるエリック・リースの「実用最小限の製品」(MVP)をまったく新しい次元に移行させたものである。リースは同著において、MVPを発売し実際のユーザーのフィードバックに基づいて発売後に商品を改善することの利点を強く主張した。ヒートテスティングでは、リースの想像よりもさらにMVPを最小化できる。それは商品ですらないが、それでも消費者の反応が得られる。

 ヒートテスティングによってPMFを見つけ出すためには、多くの変数を何度も試す必要がある。有効な結果を得るには、科学的原理に忠実であることが不可欠なのだ。購買の判断に関して、現実世界の行動データに基づく知見を得ることは、その労力に値する。最終的な成果物は、最も反応のよいオーディエンスのセグメントと彼らを熱中させる最も効率的な方法が示されている「ヒートマップ」である。


"Validating Product-Market Fit in the Real World" HBR.org, December 22, 2022.