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自社がコントロールできることに集中し営業収益を増やす
最近のビジネス界は、ビリー・ジョエルの1989年のヒット曲「ハートにファイア」さながらに、「火をつけたのは僕たちじゃあない」と言いたくなる状況が続いている。インフレの進行、地政学的緊張の高まり、エネルギー不足、労働力不足、社員が抱く期待の変化、金利の上昇、サイバー関連およびデータ関連のリスクの増大、飽くことなき投資家の要求……企業が直面する問題は山積している。
ビジネスリーダーたちがこれらの問題を生み出したとは、必ずしも言えない。一方、問題を解決し、リーダーシップを振るって切り抜けるのは、ビジネスリーダーの役割だ。
筆者が思うに、激しい向かい風の中でも、多くのビジネスリーダーや企業統治の役割を担っている人たちは、質の高いリーダーシップを発揮している。顧客に起きている変化の大きさを考えれば、現在の状況はさほど悲観すべきものではないと思う。いま企業が直面している問題を軽く見ているわけではない。状況は難しくても、あらゆる業種の多くの企業がレジリエンス、アジリティ、イノベーションを発揮しているからだ。
いまそのような企業が取っている行動、それは物事をシンプルにし、自社がコントロールできることに集中することだ。そうすることで、営業費用の増加を上回るペースで営業収益を増やそうとしている。
具体的には、どのようなことを実行しているのか。筆者が数々の企業のCEOたちと話すなかで気づいたのは、企業間の共通点が目を見張るほど大きいということだ。多くのCEOは、以下の5つの問いに答えることに集中している。
1. 自社は差別化できているか
差別化は、戦略的な価格設定を行うこと、顧客に対する価値提案を進化させること、質の高いサービスを提供すること、顧客への反応速度を速めること、同じ顧客に複数の商品をセールスすること、独特の顧客体験を用意することなどによって実現される。さまざまな業種で成功を収めている企業は、あるいはリアルな空間で、あるいはデジタルチャネルで、あるいはオンラインプラットフォームで、そして、購入の前の段階で、購入の段階で、購入の後の段階で、こうした手法を実行している。
成長ペースが減速した市場においては、売上げを得ることが以前より難しくなっている。そこで、成功している企業は、次のような問いをみずからに問い掛けている。顧客が我が社を選ぶべき理由はあるか。我が社は、どのようにライバル社との差別化を図ればよいか。我が社はどうやって市場シェアを拡大すればよいか。
幸い、差別化を成し遂げるために必要な要素は、すべて自社がコントロールできる範囲内にある。ただし、リーダーはそれ以外の要素に目を奪われないようにしなくてはならない。
2. 自社は成長を目指せる健全な状態にあるか
新型コロナのパンデミックの間に、多くの企業が事業を成長させた。そして、その後もさらなる成長が期待された企業では、社員の採用を大幅に増やし、数え切れないほどの「特別プロジェクト」に着手した。企業買収を行ったものの、傘下に収めた企業の統合が遅れたり、オペレーションのあり方や標準化に関する難しい意思決定が先送りされたりするケースもしばしば見られた。
このような事業拡大の意思決定が行われたり、逆に必要な意思決定が後回しにされたりした時期のビジネス環境では、金利が低くて資金を調達しやすく、しかも市場が成長していた。しかし、現在はビジネス環境が大きく変わり、もはやこうした好条件は整っていない。
企業は、利益を挙げつつ、事業を成長させなくてはならない。しかも、自己資金でそれを成し遂げることが求められる。投資家はおそらく、成長のための資金を捻出しようとして企業の利益率が悪化することを許さず、そうかといって、成長しないことも許さない。
それでは、企業はどうすればよいのか。自社を健全な状態にして、自己資金での成長を目指すべきだ。それは、すべて自社でコントロールできる範囲内のことである。