
キャリアのピークである中年期に重なる更年期
米国では、CEO就任時の平均年齢は54歳だ。多くの人にとって中年期はキャリアのピークであり、何十年にもわたる努力がようやく報われ、高い地位の管理職やリーダーになるために必要な専門知識、自信、安定性を備えているとみなされる時期だ。しかし、人口の半分の人にとって、中年期はもう一つの大きな変化を意味する。更年期だ。
更年期とは、生殖ホルモンのレベルが大きく変動し、月経周期が最終的に停止する期間のことで、一般的には45~55歳で始まり、約7年間継続する。この時期、女性(あるいは女性の体を持つ人)には、うつ病、睡眠障害、気分の変化など比較的目に見えにくい変化と、ホットフラッシュ(予測できないのぼせ、ほてり、発汗)といった目に見える症状の両方が生じる。
目に見えない症状も深刻だが、更年期であることを知られることでキャリアに支障を来たすのではないかと、職場でホットフラッシュの症状が出るのを特に恥ずかしく思う人は多い。しかし、その懸念は仕方がないものなのだろうか。
職場におけるホットフラッシュの影響を理解するため、筆者は同僚のテリ・フラスカ、バネッサ・バーク、ディダー・ゼイチュン、ジェス・マトシックと共同で、更年期にまつわるステレオタイプ、女性のキャリアに対する潜在コスト、男女問わずこれらのバイアスを克服するための戦略に関する一連の調査を行った。
更年期の女性はリーダーらしくないと見られる
最初の調査では、米国在住のフルタイム労働者300人に、「更年期の女性」「中年女性」「中年男性」と表現された仮想の同僚について、第一印象を答えてもらった。さらに、大学生200人近くに、更年期のホットフラッシュの症状がある中年女性、症状のない中年女性、中年男性という職場のシナリオを読んでもらった。
どちらの実験でも、他の条件は同じなのにもかかわらず、更年期障害がある女性はそうでない女性よりも、自信と感情の安定性が低く見られた(この2つの特性はリーダーシップと関連することが示された)。
更年期についてオープンにすること
幸いなことに、このバイアスを克服する効果的な方法が、その後の研究で明らかになった。フルタイム労働者240人以上に、会議に出席している同僚の中年女性がホットフラッシュに見舞われていると想像してもらった。その女性は明らかに不快そうで、赤らめた顔を扇ぎ、顔の汗を拭っていた。
一つのシナリオでは、同僚に体調を尋ねられた女性は「大丈夫。暑いだけです」と答え、別のシナリオでは「大丈夫。ただの更年期です」と答えた。すると、自分の症状の原因が更年期であることをオープンに明かした場合は、「暑いだけ」と言った場合よりも、自信があって、安定していて、リーダーらしく見られることがわかった。
この効果は、女性の人種や会議参加者の構成に関係なく維持されることも確認された。女性が黒人または白人であることを明示したシナリオと、会議の参加者の構成が男女均等、あるいは男性中心のシナリオで実験を行ったところ、参加者は一貫して、ホットフラッシュの症状があることをオープンにした更年期女性のほうがリーダーに相応しいと考えたのだ。
これは直観に反しているように思われるかもしれない。最初の研究では、更年期であることについて、明らかにネガティブなステレオタイプがあることが明らかになった。しかし、筆者らの分析は、更年期であることを公表することで、自信と安定性を示し、人々が抱くネガティブなバイアスを本質的に打ち消すことを示唆している。
人々は、状況の説明を評価したのではない。これは重要な点だ。別のシナリオでは、女性の症状が更年期によるものであることを、女性自身ではなく「同僚」が説明した。このシナリオを読んだ参加者は、その女性の症状が更年期障害であることを理解したのにもかかわらず、彼女をリーダーらしくないと評価した。このことが示すのは、ホットフラッシュがどのようなものかについて教えるだけでは、バイアスを克服するには不十分である、ということだ。リーダーシップの可能性について認識を高めるには、自己開示が重要なのである。